自分が長生きするかどうか、
それは誰にもわからない!
「65歳から90歳までの25年間で必要な金額」の部分で、男性の多くは「自分は90歳まで生きていないだろう」と考えているかもしれないが、何歳まで生きるかを事前に予測することはできない。
もしかすると、もっと長生きすることだってありうるのだ。
それに、配偶者はどうだろう? 一般に、女性は長生きだ。夫が死亡した後は、年金収入が激減した中で生活していかなくてはならない。そして65歳女性の平均余命は、平均で89歳なのだ。
このように考えると、赤字補填額は少なくとも「90歳までの25年分」を見ておくべきだ。 さらに病気への備えや家の修繕費、子どもへの支援などの特別支出も別途用意する必要がある。
“下流予備軍”から
“下流老人”へ流される理由
経済的に自立ができない下流老人という事例が騒がれ始めたのはつい最近のことだ。
私がFPになった1990年代後半は、今のような老後に対する不安の声はあまり聞かれなかった。実際、退職後の生活設計の相談を受けていると、当時は「住宅ローンは完済済みで、貯蓄は1000万円ほど。退職金が2000万円もらえるので、老後資金は3000万円」といったケースが多かったものだ。
先に見たように、3000万円というのは老後資金としてまずまずの金額といえる。ところがこの数年は、老後資金の準備がまったくできていない人の割合が年々増えている。60歳時点の住宅ローン残高を確認すると1500万円も残っており、さらに子どもの大学進学時に借りた教育ローンが200万円もあったりする。
その一方で、貯蓄は100万円ほどしかないといったケースがめずらしくない。 こういったケースでは、退職金でローンを完済すると、老後資金はほとんど残らない。つまり頼みの綱は年金のみといった“下流予備軍”の典型例だ。
こうした事態に陥っている40〜50代の家計を見ると、以下の5つの要因が大きいと言える。
(1)住宅ローンの借りすぎで60歳時のローン残高が多額。結果、老後資金が不足。
(2)都市部では子どもを中学から大学まで私立に通わせるケースが増え、ただでさえ右肩上がりの教育費支出がさらに膨らむ。
(3)30代の出産が珍しくなくなり、教育費のピークが50代後半以降にある。そうなると子どもが社会人になって独立してから親がまもなく定年を迎えることとなり、老後に向けて貯蓄にスパートをかける期間が短い。
(4)子どもの大学進学時に教育ローンや奨学金を借りており、借金が多い。
(5)そもそも計画的に貯蓄できていない。
当てはまるものが複数あって、ドキっとした人は少なくないはずだ。ちなみに、2つ以上当てはまるなら、“下流予備軍”の可能性が高くなる。