たとえばここで、3000万円の宝くじが当たった人が、2000万円のマンションを購入し、月10万円の家賃で他人に貸し出したとしよう。これによって、バランスシートは下の図のように変化する。

キャッシュフローを生み出す力のなかった現金3000万円が、依然としてお金を生まない1000万円の現金と、年間120万円のキャッシュフローを生む2000万円のマンションに姿を変えるわけだ。

ファイナンス的な意味でのお金持ちというのは、キャッシュフローを生む資産を多く持っている人である。したがって、世の中のイメージでは「いかにもお金持ちの所有物」というイメージがあるもの、たとえば「金」「美術品」「避暑地の別荘」なども、ファイナンス的価値が低いものばかりだ。

金は市場価格の変動によって換金時に利益が出ることはあるが、それ自体は何の配当も利息も生み出さない。

部屋に飾ってある高価な絵画や有名な陶芸家がつくった茶碗も、鑑賞することで得られる主観的な価値はあるが、やはりキャッシュフローをもたらすわけではない。

軽井沢にある別荘などは、維持費などの管理コストが使用価値以上にかかるので、ファイナンス的な価値はマイナスかもしれない。

なぜ「ヒト・モノ・カネ」という順序なのか?

モノの価値はそれを手に入れるのにかかったコストだけでは決まらない。これは企業価値についてもまったく同じである。キャッシュフロー・アプローチで考えると、企業などのバランスシートも違った見え方をしてくる。

会社の価値もキャッシュフローを生む力で決まる。そのファイナンス的価値の総額から資産の清算価値を差し引いて残るのが、目に見えない価値、つまり無形資産だった。

ここで、ある企業I社が新工場を建設した場合を考えてみる。用地取得費用、建設費用、設備費用として総額10億円のコストがかかったが、その工場は20年にわたり稼働し、毎年3億円の利益を稼いだとしよう。

かけたコストよりも将来のキャッシュフローの総額が大きいとき、「この工場には超過収益力がある」という言い方をする。そしてこの超過収益力の源泉は、無形資産のほうにあると考えられる。

企業価値 = 清算価値 + 無形資産の価値(超過収益力)

つまり、I社の新工場には30億円(=清算価値10億円+超過収益力20億円)の価値があることになる。たとえば、絵画「モナ・リザ」の価値の大半は目に見えない価値(超過収益力)だ。その原価はキャンバスと絵具だけなのだから。