実は分散によるリスクの低減効果は「分散回数の平方根」に比例する。

前述の例では、2回に分けたときの分散効果が0.707(=1÷√2)だった。もともとのリスクが125%だったので、2回に分けるだけでリスクは約88%にまで小さくなる。4回に分けると分散効果は0.5(=1÷√4)なので、リスクは62.5%だ。さきほどの計算結果とも一致する。

これがノーベル経済学賞を受賞したハリー・マーコウィッツの現代ポートフォリオ理論の第1の結論――分散効果だ。つまり、投資家は「複数の資産」を持つことによって、ポートフォリオのリスクを減らすことができる。言い換えれば、分散投資することで、より確実に期待収益を得られるのである。

マーコウィッツによれば人間は「リスク回避」をする生き物である。同じリターンであれば、低いリスクの投資のほうを選ぶべきである。「だからこそ投資家は、複数のカゴにタマゴを盛るべきだ」というのがマーコウィッツの答えなのである。

「凸凹コンビ」がリスクを減らす――相関効果

さて、分散効果以外にリスクを減らす要因はないだろうか?マーコウィッツはそれに「YES」と答えた。現代ポートフォリオ理論の第2の柱である「相関効果」についても見ていくことにしよう。

分散投資によるリスク軽減効果が成立するためには、決定的な前提がある。それは、それぞれの資産の値動きがお互いに独立している(影響を及ぼし合わない)ことだ。

ルーレットゲームを2回やる場合でも、それぞれの結果はお互いに影響を与えないはずだ。1回目に赤が出たからといって、2回目は必ず黒が出るといったことはない。完全なるランダムウォークの世界だ。

しかし、現実世界に存在するさまざまな投資商品の動きは、お互いに深い関係を持っている。たとえば、ドル円相場と輸出関連銘柄の関係もその1つだ。ドルが高く(円が安く)なると、輸出で儲けている自動車メーカーの株価は上がる。これは海外売上の円換算額が、円安効果によって一気に高まるからだ。逆に、石油会社などの輸入企業はドル高(円安)になると、株価が下落しやすい。原料の購入コストが高くなり、採算が悪化するからだ。

このとき、ドル円相場と輸出企業の株価の動きは正の相関関係にあり、ドル円相場と輸入企業の株価の動きは負の相関関係にあるという。

分散投資によってリスクを軽減するには、単に複数の投資対象を持つだけでなく、それぞれの資産の相関効果も念頭に置く必要がある。結論を先に予告しておけば、お互いに反対の動きをする負の相関を持つ銘柄を組み合わせることで、リスクの軽減効果を高めることができるのだ。現代ポートフォリオ理論とは「分散効果」と「相関効果」の2つを組み合わせることによって生まれた「リスクだけを下げる錬金術」なのである。