ブラック・ショールズ式を極限までシンプルにする

ここまでくれば、せっかくなのでノーベル賞を受賞した「ブラック・ショールズ式」を見てみよう。これはオプションの理論価値を計算する数式である。

名前はよく知られているが、初めて見る人も多いのではないだろうか。ブラック・ショールズ式は、実際には下のような形をしている。これを見ただけでめまいがしてくる人もいるだろう。「難解なファイナンス理論」の代表格になったのも無理はない。

といっても、ブラック・ショールズ式の考え方は、実はきわめてシンプルである。といっても、これをひと目で理解しろなどと言うつもりはない。

書籍『あれか、これか』では、エッセンスだけをつかんでいただけるように、枝葉の部分は切り落として、徹底的に分かりやすく解説しているので、興味のある方は是非手に取ってみてほしい。

結論だけを言えば、この式を極限までシンプルにすると、下記のように表現することができる。

オプション価格 = 原資産価格 × ±d1標準偏差内にデータが集まる確率
※d1=σ×0.5

もし当該株の現在価格が100円で、ボラティリティ(σ)が200%だとすると、「d1=1」となり、コールオプションの価値は次のように計算される。

68.27円 = 100円 × 68.27%

では、まとめよう。

(1)原資産のボラティリティ(リスク)が高くなればなるほど、そのオプションの価値は高くなる
(2)オプションの価値は、原資産の価格(S)以上になることはない

この2つがブラック・ショールズ式のエッセンスである。

野口真人(のぐち・まひと)
プルータス・コンサルティング代表取締役社長/
企業価値評価のスペシャリスト
1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。
2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。2014年・2015年上期M&Aアドバイザリーランキングでは、独立系機関として最高位を獲得するなど、業界からの評価も高い。
これまでの評価実績件数は2500件以上にものぼる。カネボウ事件の鑑定人、ソフトバンクとイー・アクセスの統合、カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBO、トヨタ自動車の優先株式の公正価値評価など、市場の注目を集めた案件も多数。
また、グロービス経営大学院で10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとるほか、ソフトバンクユニバーシティでも講義を担当。目からウロコの事例を交えたわかりやすい語り口に定評がある。
著書に『私はいくら?』(サンマーク出版)、『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)、『企業価値評価の実務Q&A』(共著、中央経済社)など。