人事部ではなく人事屋が多い理由

楠木 ところがね、僕が一方で、変だなと思うのは、人事の世界って、わりと職能集団としてのプラットフォームみたいなのが、ほかの分野と比べると発達している。

 よくある話がね、人事のベストプラクティスみたいなものを求めがちなんですよ。これからは、こういう制度がいいんだとかね。こうあるべきだとか、これはもう古いとかね。それは、なんか変な話だなと、いつも思っているんです。人事なんて、もっと会社によって、全然違うべきだと思うのですが。

佐藤 私は人事の世界では体系化されたものやノウハウが、確かに求められている節はあると思うんです。ただ、そういう話をする中で、個人的な意見として言わせてもらうと、そもそも体系なんてないとは思っています。要は、他社の事例はあくまでも、一つのケーススタディなので、「いつか役に立つかも」ぐらいの感じで、人事の教養として懐にしまっておきましょうと。役に立ったら、ラッキー、みたいな感覚です。

 その会社の最適解としてやられたことなので、それにはいいところも悪いところもある。それをどんどん蓄積していき、自分が対峙している現場で、活かす部分があるかどうか考える。そんな自分なりのマイ体系をつくっていきましょうと思っています。

楠木 まったくおっしゃるとおりで、引き出しとしての「教養」はもちろんあるに越したことはないと思います。

 ただ、僕の偏見かもしれませんけど、人事部の方って…僕のイメージですよ、商売センスがない。どんだけ儲かるのかっていうのに対するつながりが薄いと思うんです。

大森智子(仮名)
商社勤務。人事・総務全般を担う。

 それから、やたらとヨソを参照する。いま、よそでどうなっているのかなって考える。それから、進歩主義。もっといいのがあるはずだ、もっとよくなるはずだとか。逆に言うと、これはもう古いとか、こういうのは間違っているとかに関心がある。

 人間という好き嫌いの塊を相手にしつつ、仕事としては、良し悪し基準で割り切っている人が、結構多い分野が人事だというのが僕のイメージだったんですけど、みなさん全然違う感じでよかった(笑)。僕の思い込みなのかな。

大森 全然違いますね、たぶん(笑)

宮島宗太(仮名)
メディア系企業勤務。リクルートグループ、外資系ネット通販企業、大手コンサルティングファームなどを経て現職。主にリクルーティングを中心に、人事系のキャリアを歩む。

宮島 世の中の人事を代表する、ステレオタイプな人たちではないかも(笑)

楠木 僕の偏見が強すぎるんでしょうけど、もうちょっと皆さんみたいな話が、世の中のトーンになってくるといいのになと思います。

佐藤 僕がまず人事という仕事をやる時に、うちの人事責任者の曽山(曽山哲人氏)に「人事屋になるなよ」って言われたんです。

大森 あぁー、いいですね。それ同感です。

佐藤 彼が考える人事というのは、基本的に業績に貢献するためにやる仕事なんです。経営視点を無視して、こんな制度を次は起こさなきゃとか…というのは違うんだと。

楠木 そうそう。「人事部」ならぬ「人事屋」っていうタイプがいますからね。

宮島 制度づくりマニアみたいな。制度づくりコンテストで、上位入賞をめざすみたいな。

佐藤 制度を提案することが仕事、みたいになっちゃう人が、人事屋さんだと思って。結局、制度を導入したことで業績貢献に繋がるのか?というイメージトレーニングまでしておかないと、ダメだと思っています。