人間の本質が変わらないのに、制度だけ進歩しようとする疑問

人事部は「人事屋」になってはいけない

楠木 時間軸で見た時の進歩主義について少し話させてください。どんどんよくなっていかなきゃいけないし、より先端的なものを取り入れなきゃいけない。こういうことを言っている人に、ろくな人はいないなというのが、僕の見解です。

『アライアンス』という本はお読みになりました?

佐藤 読みました。

楠木 あの本はいいことを言っているんですよ。何がいいのかというと、はじめから最後まで「当たり前のこと」を言っている。シリコンバレーのベンチャーで、新しい人事や働き方が始まっているという打ち出し方ですが、書かれていることは、そのへんの町工場であっても、良い会社だったらやっているよっていうことばかりなんです。

 一見進歩的に見えることであっても、人間の本質は変わらない。だから、そんなに新しい人事や働き方なんで、すぐに生まれない。もともとあるものを、違った角度から見ているに過ぎないんですよね。

 僕は人事の人にとっても、扱う相手が人間である以上、「好きなようにしてください」が原理原則なんだと思います。あとは、それぞれ忠実に、その原理原則を仕事や会社に使っていけばいいと思うんですよね。話はもともときわめてシンプルのはずです。

大森 本当にそうですよね。

人事部は「人事屋」になってはいけない 人事部は「人事屋」になってはいけない

楠木 なんで、制度云々の話をし出して、難しくするのかなって。やっぱり手数がかかるんですかね。一人ひとりの好き嫌いに立ち入っちゃうとね。

大森 たしかに。労力はかかりますよね。

楠木 一人ひとり違うと、制度化しても規模の経済はゼロですからね。

大森 でも、やっぱりしょうがなくないですか。人事って「人の事」って書くんでしょうと。それだったら、やっぱりわれわれ人事は、人間に立ち返るんじゃないのか、と思うんですよね。

※後編は6月3日(金)に公開予定です。