アイウエアブランド「JINS」を展開するジェイアイエヌは、2010年12月に中国遼寧省瀋陽市に海外第1号店「JINSヤマダ電機瀋陽店」を出店して以来、積極的な中国展開を進め、大きな成果を上げている。経済・社会・文化的背景が異なる中国において、なぜここまでビジネスを拡大できたのか。著書『中国民主化研究』で中国の深層に切り込んだ加藤嘉一氏が、同社代表取締役社長の田中仁氏に聞いた。対談後編。

「Progressive」「Inspiring」「Honest」を核に
グローバル展開を目指す

田中仁(たなか・ひとし)
ジェイアイエヌ代表取締役社長
1963年、群馬県生まれ。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程修了。アイウエアブランド「JINS」(ジンズ)を運営するジェイアイエヌの代表取締役社長を務める。1988年にジェイアイエヌを設立。2001年にアイウエア事業に参入し、独自のSPA方式を導入したことで急成長を果たす。2011年には「Ernst&Young ワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2011」モナコ世界大会に日本代表として出場。2013年、東証一部に上場。著書に『振り切る勇気』(日経BP社)がある。

加藤 田中さんは米国にも出店されていますが、今後どのような展望をお持ちですか。

田中 米国はまだ1店舗に留まり、これからショッピングモールを中心に3店舗ほど出店します。米国の場合は、日本や中国とはブランディングやマーケティングが違うと感じています。そこを研究してからでないと危険だと考えています。

加藤 米国出店の際には、何に苦労されましたか。

田中 米国の場合、とてもよい立地に1号店を出店しました。サンフランシスコのユニオン・スクエアの一等地です。この場所に出店したことで多くの人に知ってもらうことができ、それが波及して全米のショッピングセンターからも出店依頼をいただいています。しかし、家賃が高い、人件費が高い、そして施工費が高い点で、中国と大きく事情が異なります。そのため、1店舗当たりの投資コストが大きく、慎重にならざるを得ません。米国は人口構造も理想的で将来性がありますが、各所でしっかり見極めなければ、債務超過になってしまいます。

加藤 日米中は世界トップ3の経済大国であり、教育や科学技術なども含めて、米国と中国の関係は多角的な分野でつながり始めています。日米中関係や交流という大きな枠組みから見たときに、どのようにアプローチをされていこうという戦略はありますか。中国は特に日本を意識していると思います。たとえば商品レベルで見れば、中国の方の日本の商品に対する見方は、対米国のそれとは違うように感じます。

田中 JINSの場合、「Magnify Life」というビジョンがあり、それを実現するために3つのアティチュード(姿勢)を徹底します。ものづくりでも接客でもあらゆることに言えますが、「Progressive」「Inspiring」「Honest」、この3つを重視しています。特に日本の製品に求められるのは、「Honest」ではないでしょうか。誠実さや正直さをいかに製品に落とし込むか。そして、そこにイノベーティブな商品をつくるために「Progressive」の要素も取り入れて、さらにメガネという商材に「Inspiring」の要素も加える。この3つの核にして各国にアプローチしていきたいと考えています。

10年、20年を見据えた戦略を実施する

加藤嘉一(かとう・よしかず)
1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

加藤 日本の店舗で「なぜ中国でも買えるのに、日本に来てJINSの商品を買うのか?」と聞くと、彼らの潜在意識には、友だちに「日本に行ってきて、日本のJINSで買って来た」と見せびらかしたい思いがあるようです。御社では、同じ製品の場合は、どこでも同じ品質、同じサービスで提供されていると思いますが、どこで買ったのかによって彼らはまったく違う意味を見出すようです。日本で売っているもののほうが安心でき、信頼性も高いという意識が根底にあるのでしょう。

田中 中国は本当に可能性に満ちていると思います。

加藤 田中さんが最も可能性を感じるのはどこですか。

田中 やはり、マーケットが圧倒的に大きいことです。日本のメガネの市場規模は4000億円強ですが、中国はおそらく1兆2000億円を超えていると見ていいます。約3倍ですね。当社における中国の売上はまだ大きくはありませんが、順調に成長しています。将来的には日本を超え、それにはおそらく、10年かからないのではないでしょうか。それくらい、日本を超える可能性を秘めています。

加藤 田中さんがご覧になるように、10年、20年の単位で中国社会がどのように推移するかを考えるかは重要ですよね。中国情勢が安定的に推移することは、中国の国家にとってだけでなく、中間層の消費をうながすことにもつながります。少し大きな質問になりますが、田中さんは、これからの中国がどのようになるとお考えですか?

田中 おそらく、20年くらいはよいと思います。しかし、その先には日本の比ではない少子高齢化問題あるので、そのときにどうなるかはわかりません。それをどう乗り越えるのが課題になる。日本は先進国の中で最も早くその問題に突入しますので、それに対応する過程で蓄積する知見が、今後逆に日本の強みになっていくかもしれませんね。

加藤 拙書『中国民主化研究』で書きましたが、中国が、米国や日本のようないわゆる自由民主主義国家になる可能性は低く、特に当局がみずからの意思でそれを進める可能性は低いと判断しています。政治的には引き締めがある程度存在し、経済的にはできる限り市場経済を取り入れる。その中で、可能な限りルールや法律の整備をしていくと予想しています。市場や国民のあいだではグローバルスタンダードが浸透していくでしょう。

 ただ、これは日本だけではありませんが、共産党一党独裁だから、社会主義国家だから、中国は信用できないという方も多いですよね。中国経済崩壊論も台頭して久しいですが、そのあたりのリスクは中国自身も自覚し、対応策を練っている印象を受けます。政治的安定が続けば、ビジネス環境は一歩一歩改善していくのではと考えています。消費者もよりファッショナブルで、快適な生活を求めることは人間の本性と言えるでしょう。

田中 さらに人口減少を迎えたときにどうなるか、大きな課題ですね。

加藤 そうですね。たとえば介護について考えたときに、中国で介護施設や老人ホームが定着する様子が想像できません。なぜなら、中国にはみんなで助け合う文化や伝統があるからです。なぜ自分の親を老人ホームに送るのかが理解できない。家族がいなければ兄弟、兄弟がいなければ親戚、親戚がいなければ近所によって成り立つ相互扶助社会です。中国人が現段階で思い切ってお金を使わないとすれば、それは決して消費欲がない民族だからではなく、将来に対していろいろな不安を抱えているからでしょう。

 一人っ子政策から二人目を産んでもいいという二人っ子政策に変わりましたが、この政策転換自体はそれほど効果的ではないと思います。それ以上に、戸籍改革を伴った都市化プロセスを促し、と同時にその過程で発生するあらゆる経済・社会問題をいかに解決し、人々が社会保障を確保したうえで経済活動にコミットできる環境を整えることができれば、年齢・性別・出身に関係なく、どんどん消費する民族だと思います。

田中 そうですね。だからこそ、いまは前に進むしかありません。それは日本でも同じだと思います。少子高齢化を迎えるから出店をやめるかといえば、そんなことはありません。ただし、ビジネスモデルそのものは徐々に変わっていく可能性はあると思っています。

加藤 最後に、今後10年、20年後という将来に、どのような展望をお持ちですか?

田中 日本の市場は世界的にすごく大きいわけではありません。大きなマーケットといえば米国、欧州、オーストラリア、中国もあります。今後さらにグローバル展開を加速した時に、JINSの日本国内の売上が全体の半分もあるとしたら、違和感を覚えます。グローバルで考えると、おそらく日本国内の売上は3分の1、もしかしたら4分の1、5分の1になるとすら思っています。また、そうなってようやく、JINSが本物のグローバルブランドになったと言えるのではないでしょうか。

加藤 本日はありがとうございました。

田中 ありがとうございました。