シリコンバレー、戦略コンサル他、世界の最前線で、超一流は何をしているのか?

答えは「Bullet Points(ブレットポイント)」と呼ばれる“箇条書き”によるコミュニケーション。

箇条書きは、英語や会計、そしてロジカルシンキングと同じくらい世界的に求められているスキルなのだ。プレゼン、企画書、報告書、メール、議事録。あらゆるシーンで活用されている。最新刊『超・箇条書き』の著者、杉野氏にその詳細を語ってもらう。

「否定」を使うことで、
人を動かす方法とは?

 本日は、「否定」を使って退路を断つ、というテクニックを紹介したい。

杉野幹人(すぎの・みきと) A.T. カーニーマネージャー 東京農工大学工学部特任教授 東京工業大学工学部卒。INSEAD MBA修了。早稲田大学商学研究科博士後期課程修了。博士(商学) 大学卒業後、NTTドコモに就職。シリコンバレーで仕事を共にした500人以上の起業家のプレゼンや提案資料から、箇条書き(Bullet points)で短く魅力的に伝えることのパワーとその技術を学ぶ。世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを修了後に、グローバル経営コンサルティングファームのA.T.カーニーに参画。経営戦略、マーケティング戦略、新規事業、経営会議運営支援等の幅広い経営コンサルティングプロジェクトを手掛けている。箇条書きを用いた経営者向けのプレゼン・資料作成の経験は300回を超える。現在は、箇条書きを基礎としたストーリーライティングの技術を東京農工大学でも教えている。著書には単著として『使える経営学』(東洋経済新報社)、『会社を変える会議の力』(講談社現代新書)、共著として『コンテキスト思考』(東洋経済新報社)がある

 否定を使って退路を断つとは、「何を否定しているかを明示してしまう」ことだ。そうすることで、自分の立ち位置を曖昧にせず、はっきりさせ、相手の心に響かせる効果がある。

 まずはシンプルな例で考えてみよう。例えば、新入社員Bさんとその上司とのやりとりで、否定を使ってスタンスをとることを考えてみよう。

 新入社員Bさんが上司に来年の抱負を伝えるときに次のように報告したとしたらどうだろうか。

•生産性を上げる
•衝突をいとわない

 わずか2行のシンプルな箇条書きだ。箇条書きとして、シンプルな点はとてもよい。

 だが、このような箇条書きを相手に伝えたところで、相手の心にはなにも響かないだろう。立ち位置が曖昧で、Bさんの真意が伝わらないからだ。

 最初の文について言えば、生産性を上げるというのは、「まあ、当たり前だよな」と流されてしまうかもしれない。

 仕事であれば、普通の人は生産性を上げるのは当たり前、という考えだ。「隠れ重言」として、認識されるかもしれない。
※「隠れ重言」とは、文脈を踏まえると、意味が重複しており、わざわざ伝える必要がない言葉。詳細は前回の記事参照。

 しかし、新入社員がもともと意図していたことは決して隠れ重言ではない場合もある。

 例えば次のような場合だ。仕事の成果を上げるためには、生産性を上げるか、労働時間を増やすかのどちらかしかない。この新入社員は、工夫して生産性を上げるのを怠り、若い社員にありがちだが、長時間労働に走ってカバーしようとするクセが指摘されていたとする。

 この場合、「生産性を上げる」という抱負は、その新入社員にとっては「労働時間を増やし、仕事を終わらせる」という従来の働き方との決別を意味し、「生産性を上げることで仕事を終わらせる」という働き方の大転換を意味する。

 当たり前のことではなく、彼にとっては新たな挑戦だ。真意は、決して当たり前の隠れ重言ではない。

 また、2つ目の文についても、上司からすると「衝突をいとわない」と書かれると、「おいおい、衝突するのか」と戸惑ってしまうかもしれない。

 しかし例えば、その新入社員は、自らの意見を言わなくてはいけないような場面でも、相手が目上の人だと、保身のために無難な道を選んでしまい、意見を言わないというクセがあったとする。

 であれば、「衝突をいとわない」というのも働き方の大転換の決意表明といえる。ただ、残念なことにこの2つ目の文も、1つ目の文と同じく、このままでは上司にその意図が伝わらない。

 このようなこちらの立ち位置がうまく伝わらないときは、「否定」を使おう。

 何かを伝えようとするときには、つい「何をするか」に焦点を当てがちだ。逆に、「何をしないか」に触れるのを忘れがちになる。この「何をしないか」を明示して強調することで、「何をするか」の意図を伝えるのだ。Bさんの先ほどの箇条書きに「否定」を入れてみよう。