私たちが思っている以上に、仕事上のちょっとした工夫が、成果や評価に大きな差をうんでいた?!世界一のコンサルティングファームで世界7か国のビジネスに携わった著者が、社内外の“できる人”たちの仕事の鉄則をまとめた翻訳書『47原則 世界で一番仕事ができる人たちはどこで差をつけているのか?』(原著タイトル“THE McKINSEY EDGE”)より、今日からでも役立つ成功原則の一部を紹介していきます。
今日のお題は「ノーの代わりにイエスを使う」。最もよく使う意思伝達ツールといえる“会話”において、もっと慎重に争いの芽は摘んでおくべきです。控えめなのと主体性が弱いのとは違う、ということを肝に銘じて、このスキルを身に付けられれば、日々の仕事がもっとスムーズにいき、出世にも役立つはずです。

 中国の武将で軍事思想家の孫武による『孫子』は、戦における管理手法や戦争に勝つための戦略を記した兵法書の傑作で、その思想と教えは現代のビジネス界でも広い支持を得ています。「争いは文明を前進させ進歩を実現するがゆえに避けがたいものである」と孫武は書いています(引用は私の解釈)。確かに、争いは人生において成功するための“必要悪”であり、私たちはみな必然的に争いの世界に住んでいます。

 しかし、古代中国の春秋時代から一気に2500年後の現代まで時を進め、私は代替策として、きちんと争いを回避して、しかも目覚ましい進歩を遂げる手もあることを学びました。それは、直接「ノー」と言わず、代わりに「提案型の質問」をする方法です。

「ノー」という主旨であっても、相手が好意的に受け容れる質問の返し方がある!

 このアイデアを私に授けてくれたロールモデルは、ヨセフというプリンシパルでした。海外の複数のオフィスで勤務経験があり、スムーズなコミュニケーションが彼の魅力でした。社内的な会議で意見が対立しても、ヨセフは表立って私を批判したり、反対したことは一度もありません。それなのに会議が終わると、いつの間にか私は改めるべき点をインプットされ、さらなる仕事を引き受けていることに気づくのでした。

 ヨセフの特別な才能に気づいた私は、彼が深く関わっているクライアントにプレゼンを行う際に同席させてもらいました。クライアントが市場について間違った発言をしていると、ヨセフが同意の印にうなずいているところを再び目撃しました。彼はじっと辛抱強くクライアントに耳を傾けていましたが、「イエス」と言いながらも「提案型の質問」を挟み始めました。

「おっしゃることはよくわかります。ただ、こういうアイデアを考えたことはありませんか?」
「別のシナリオを想定した場合、どうなるとお考えですか?」
「AとBを除外した場合、市場はどんな様子になるでしょう?」

 つまり、主旨としては「ノー」ですが、直接「ノー」という代わりに質問を投げ返していたのです。クライアントは、自分の間違いに気がついて何気なく修正することができ、恥ずかしい思いをせずに済みました。

 なぜ「ノー」と言わないことがそれほど大切なのでしょうか。誰に対しても直接あからさまに反論しないことが重要なのは、文化的な感受性の問題ではありません。

 さらに、あなたが出世の階段を上級副社長や経営幹部レベルまで上り詰めたとき、「ノー」と言わないことがますます重要になるはずです。なぜでしょうか。

 数週間後、私はヨセフと夕食をとりながら、プレゼンで気づいたことを話題にしました。彼の答えがまた印象的でした。

「第1に、緊急の場合は別として、ほとんどの場合は相手に反論する必要はありません。相手の誤りを間接的に指摘して本人に気づかせるほうが、大抵は好ましいはずです。第2に、否定されたり、自分の間違いを指摘されて、喜ぶ人はいません。特に肩書きが立派になるほど、権威と社会的地位に傷が付くので、不愉快に感じます。第3に、最も重要な点として、会話は最も頻繁に使う意思伝達のツールであり、だからこそ軽んじるべきではありません。争いの芽は、もっと慎重に処理するべきです」

 他人に反対されたときの対処法が書かれた本は多数ありますが、自分自身の反対の立場を控えめに表明する方法を扱ったものはおそらくないでしょう。しかし考えてみれば、自分を抑えることはそれほど難しくないことがわかります。

“控えめ”なのと“主体性が弱い”のとは違う

 控えめになると聞いて、「主体性を弱める」という意味に誤解されるかもしれませんが、そういう意味ではまったくありません。

 主体性とは、必ずしも攻撃的で、思ったことをズケズケ言うことではなく、「目的地に到達するために、なすべきことが分かっている」ということです。「ノー」と言わないこの手法は、目的地に首尾よく到達する方法のひとつにすぎません。

「提案型の質問」手法を実践するためには、まず、あなたの警戒心を取り除く必要があります

 衝動的に、相手を正そうとする癖をやめましょう。これは思っている以上に難しいものです。なぜなら、私たちは「正しい」答えを主張する癖がついているからです。

 答えを正す代わりに、相手がみずから間違いに気づくような質問をしてみてください。相手の立場に立ち、相手が質問を正しく捉えられるように、根気よく手を貸すのです。

 今よりもっと頻繁にうなずき、同意できないときでも、まずは「なるほど、興味深いですね」などと必ず相づちを打ってから、選択式の質問をしましょう。そして、聞き手の賛同を得られやすくなるように、提案型の質問をどんどん取り入れていってください!