「スーパー!!ナツ、コツをつかんできたな。さすがはマインドフルネスの御本家じゃわい」

途端に意識がかき乱される。そうなのだ、うすうす感じはじめていたが、やはりマインドフルネスの基本姿勢は、幼いころに父から叩き込まれた坐禅に通じるものがある。上達が普通の人より早いのだとすれば、それは私が日本人だからではなく、禅寺の娘だからなのかもしれない。その意味では、皮肉にも私はマインドフルネスの御本家なのかもしれなかった。

「さあ、ここから全部で3つのステップがある。最初は、ストレスを受けたときの自分の変化に気づくことじゃ。何かいやなことが起きたとき、嫌なことが頭に浮かんだとき、自分の心はどんな反応をしているか、はたまた身体の感覚はどう変化したか、それを観察するんじゃ。ストレスの原因を心の中で1つの文にしてみると、より反応がわかりやすいと思うぞ」

私のストレス、それはもちろん自分の研究が進んでいないことだった。多くの人に癒しをもたらす世界最先端の脳科学を学びにイェールまで来たはずなのに、なぜかこの怪しげな老人に手ほどきを受けながら、つぶれかけたベーグル店の手伝いをしている。そのもどかしさは何をしていてもずっと脳にこびりついている。

私は「研究が進まず焦っている」と心の中でつぶやいた。じわりといやな気持ちが押し寄せるとともに、お腹のあたりがひゅっとこわばる感覚が続いた。なるほど、ストレスが身体の緊張につながるというのは、文字どおりの意味なのだ。

「次のステップは、いつもどおり呼吸に注意を向けることじゃ。『1』『2』『3』とラベリングをしてもいいぞ。呼吸は自分をいまここへと呼び戻してくれる錨じゃ」

過去の失敗や将来への不安に向かっていた意識が、私の呼吸に集まっていく。それに伴って、身体の緊張がじわじわとゆるんでいくのがわかった。

「最後のステップ、ここがブリージング・スペースの大事なところじゃ。意識の向かう先を呼吸から身体全体に広げてみよう。コツはあたかも身体全体が呼吸をしているかのようにイメージすることじゃな。

2番目のステップで緊張を感じた部分があれば、息を吐くときにそこに空気を吹き込むようにイメージしてみてもいいぞ。呼吸につれて柔らかくなっていく感じ、開けていく感じを持つように」