政治や社会問題を「重たい」と避けている不感症なあなたへ

ウーマンラッシュアワー村本大輔──。沖縄の基地問題、原発、朝鮮学校についてなど、おおよそ今まで私たちが見てきた「お笑い」とはまったく違うものを、彼は舞台の上で繰り広げている。そんな彼がさまざまな地で見て、感じた“痛み”をつづったノンフィクション『おれは無関心なあなたを傷つけたい』が刊行された。「テレビに出ずに全国を回って人と話してきたのでそれを本にしました」と語るその本には、「2020年ベストワンの本」「泣きながら笑って読んだ」「この本だけは絶対に読んだほうがいい」と読者から絶賛の声が多数集まっている。今回は本書の刊行を記念して特別インタビューを実施した。村本大輔が漫才で感じることのある”気持ち悪さ”とは?(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

「SNSで叩かれても、ザビエルは布教していたと思う」

――さまざまな問題の当事者に会い、その体験をストレートな気持ちでつづった今回の本に、絶賛の声が多く寄せられていると聞きました。一方で社会問題を発信すると、SNSなどで非難が来ることも多いのではないでしょうか。

村本大輔(以下、村本) 僕はね、ザビエルの時代にSNSがあっても、ザビエルは布教してたと思うんですよ。ライト兄弟の時代にSNSがあっても、ライト兄弟は空を飛ぶことを諦めなかったと思うんです。諦めるやつはバッシングがあってもなくても諦めるし、やるやつはバッシングがあってもなくても結局やるんですよ。

 今の時代は、SNSによって群衆の声が可視化されただけで、昔だって世界中の人々に「さあ、どうですか? どう思いますか?」って問いかけたら、みんないいか悪いかの意見くらい言うだろうと思いますよ。

 ただ、昔は「どう思いますか」と投げかけるツールも、投げかけられた問いに対して意見を言うツールもなかっただけの話であって。

 SNSで発信するというのは「食べログに店を出したら、レビュー書かれるよ」というのと一緒で、そういうもんなんですよ。何かしよう、発信しようと思ったら必ず誰かにはバッシングされるわけですよね。

政治や社会問題を「重たい」と避けている不感症なあなたへ村本大輔(むらもと・だいすけ)
1980年生まれ。福井県おおい町出身。2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。2013年に漫才コンクール第43回NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIともに優勝。AbemaTV「ABEMA Prime」を通じてニュースに触れ興味を持ち始めたことをきっかけに、原発や沖縄基地問題、朝鮮学校など政治・社会問題を取り上げた漫才をつくり、フジテレビ系「THE MANZAI 2017」で披露。劇場を主な活動の場にしており、積極的に全国で独演会を開催している。2021年2月16日(火)、22日(月)には、東京・大阪にて独演会「Without me~おれを排除してみな? お前たちおれなしじゃこの世界はとてもつまらないだろう」を開催予定。

──村本さんは、書かれてもあまり気にされないんですか?

村本 うーん、気にはしますけど、そこまでじゃないかなあ。「森に行ったらそりゃ蚊に刺されるやろ」みたいなもんでね、SNSにバーッと行って蚊に刺されないまま帰ってくるやつなんていないじゃないですか。たまに森に行って遊びに行くくらいがちょうどいいのであって、あのなかでずっと彷徨ってるから「あーん、もうめっちゃ蚊に刺された~」とか言ってるわけでしょ。

「SNSをクリーンで生産的な場所に」って寝ぼけたことを言うやつもたまにいますけど、いやいや、あの場所は、日本人という世界で一番仮面をかぶって生きてる人たちが、仮面を取って醜いツラさらして踊り狂ってる一番恐怖の場所やから(笑)。あそこに「こんなお弁当つくったよ~」って載せたら、そりゃあ袋叩きにあってもおかしくないやろと思いますよね。

 好きな人からの評価だけでいいのに、「不特定多数の評価をちょうだい!」って巻き込まれに行くからボコボコにされるわけであって。ボコボコにされてもいいから「いいね!」をちょうだい!ってSNSに突っ込んでいくならいいんですけど、「褒められると思ったのにボコボコにされた~」って、いやいやいや(笑)。それは卑しいやろと思いますけどね。

「重たい」で片づける、不感症な日本人たち

村本 発信して非難されることより、僕がいつも問題に思うのは、社会問題や政治の話をしたときによく「重いな」って言われることですよ。でも、それって「いや、軽い会話しかしてないからそう感じるだけじゃないか」って思うんですよね。

 だから、普通のことを「重い」と感じるくらい、じつはどうでもいい会話しかしてないんじゃないかと。ただ寂しさを紛らわすような、時間を潰すだけの会話。もちろん、そういうのがあってもいいと思いますよ。でも、そういう人たちに漫才をやったときって、毎回、油のなかに石を落としたみたいな感覚になるんです。

政治や社会問題を「重たい」と避けている不感症なあなたへ

──油のなかに石、ですか。

村本 こう、ポチャンとならなくて、スーッとゆっくり沈んでいくような感じ。僕、アメリカに渡ってあちこち回って、コメディクラブに飛び込みで片言でネタをやったときに、あまりの日本との違いに衝撃を受けて。

 そのときにやったのは、ちょっとセンシティブなネタでした。「日本っていうのは、アメリカからたくさん戦闘機や武器を買わされまくってるんだ。断ることができなくて、俺たちはいつも税金で払ってる。だから、笑いでその分の金を取り返しに来た」っていうネタをやったんですね。そのとき、みんな一瞬止まるんですけど、そのあとワッと盛り上がるんですよ。

 僕としては、本当はもっと日本で盛り上がってほしい。でも、日本人はみんな不感症だから、敏感に感じられないんですよ。油のなかに石を投げてるような気持ち悪さが、ずっとある。