景気に大きく左右される業態であるうえに「政治銘柄」。稲盛和夫会長の舵取りが注目される
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 経営再建中の日本航空(JAL)は11月15日、9月から始めた希望退職募集の人数が足りず、整理解雇に踏み切ることを決定した。

 対象となるのは、運航乗務員(パイロット)と客室乗務員の合計250人。事務系地上職や整備職については人数が目標に達したため、整理解雇の対象ではない。

 組合側は裁判も辞さない構えを取っており、解決には時間がかかりそうだ。

「場合によっては整理解雇も辞さない」。瀬戸英雄・企業再生支援機構委員長が以前からこう明言していたように、会社更生法適用申請をし、公的資金による援助も受けて再生を目指しているJALにとって、リストラ計画の完遂は銀行団からの信頼を回復するためにも欠かせない。

 日本政策投資銀行と国際協力銀行に加え、みずほコーポレート銀行以下メガバンク3行の計5行は、合計で5200億円もの債権放棄を決めている。これは、保有債権(担保なし)の87.5%に及ぶカット率だ。残る3200億円ほどについて、来年春をメドに借り換えるため、銀行団と水面下での交渉を続けてきたが、このほど2800億円の融資で合意した。あくまで借り換えであって、新規融資はゼロ。にもかかわらず、銀行側は慎重な姿勢を崩さなかった。

「足元の業績がいいからといって、丸ごと要求を受け入れるわけにはいかない」(ある銀行幹部)。融資を再開すれば再び、長い付き合いが始まることになる。

 一方、時限的組織である支援機構はあと2年少しでJALに投じた3500億円を回収し、経営から手を引くことになっている。

「支援機構がいなくなった後、銀行だけが取り残されるようではたまらない」

 そう考えた銀行団は、支援機構による保証を求めたほか、担保の設定や「支援機構がいなくなる2013年1月にいったん返済してもらい、その後のお付き合いは応相談」という案を出すなど、リスク回避に懸命。同時に要請された増資は断ったもようだ。

 銀行団がここまで及び腰になる理由は二つ。これまで、政権の考え方一つで方向性が大きくブレてきたため、銀行はJALを「政治銘柄」としてとらえている。政権が安定しない以上、今後の方針もいつブレるかわからないという恐怖があるのだ。

 もう一つは経営再建案の実効可能性への疑問だ。大リストラをし、巨額のマネーを入れたのだから、足元の業績は回復して当然。しかし、数年先も大丈夫かどうか、誰も確証を持てていない。むしろ「必ずまた傾く」との見方をする関係者も数多い。

 11月末には更生計画案が認可される見通しのJAL。しかし、これで安心ということはなく、試練は何度も巡ってきそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 津本朋子)

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