「資料」とは、現場の動きや成果を数値化・文章化したものです。
しかし赤字会社では、「資料」が起点となり、社員の行動のほうが資料に寄っていってしまうのです。
「社長の安心」が赤字を生む。こう断言するのは、最新刊『スピード経理で会社が儲かる』の著者、前田氏。その真意を語ります。
社長には、「資料を見極める目」がいる
一口に会議資料といっても、内容は多岐にわたります。BS/PL(貸借対照表/損益計算書)から派生するような財務的内容のものから、新規獲得件数など、営業管理的なものまでさまざまです。
1973年生まれ。学習院大学経済学部卒。
レコード会社など数社の民間企業で経理・総務業務を行い、大手PR会社では経理部長としてIPOを達成。その後中国へ赴任し、現地社員への管理業務の指導等を経て独立。
独立後は、黒字会社を中心に経理業務の受託を行っていたが、携わる会社がことごとく急成長を遂げる。その理由を観察・分析し、「黒字会社・黒字社員の習慣」をまとめる。そしてそのメソッドを、赤字で苦しむ製造業の会社で実践。経理部長代行として、毎月10営業日訪問し、経理を通した組織改善を進める。
結果、わずか1年で5000万円の営業赤字が5000万円の営業黒字に反転し、1億円の利益改善に成功。その後も2期連続で黒字を達成し会社を軌道に乗せ、金融機関の与信ランクも回復させた。
現在は「フリーランスの経理」として、製造業やサービス業など幅広い業種を対象に、3~7社の業務を常時並行して行っている。黒字会社のさらなる黒字化のアドバイスに加え、赤字体質の会社への社員指導、利益を生む組織改善の提案にも定評がある。
当然ながら、BS/PLの他にどのような資料が作られるのかは、会社によってまちまちです。上場企業や上場準備企業などは、周囲からの要望や指摘の中で作られることもあります。
そうでない会社の場合、基本的には経営陣が「ほしい」「知りたい」と思う資料の作成指示が飛ぶことでしょう。
だからこそ、そのような会社であればあるほど、「社長だけが求めている資料」が増えないように気をつけなければいけません。経理のスピードアップの妨げになるばかりか、会社の生産性をも落としてしまうからです。
経理作業には2段階あり、「伝票入力やチェック、月次決算を締めるといった直接的な業務」と、「確定した月次決算の数字をもとに、会議資料・分析資料などを作成する業務」とがあります。大前提として、「その資料が本当に必要かどうか」を見極める目が必要なのです。
事例:社長の安心が赤字を生む
私が経理という立場で会社の組織を見ていると、興味深い現象に出合うことがあります。例えば、新規獲得案件についての指標です。
この指標が作られるのは、経営者の「新規獲得案件が少ないからテコ入れをしたい」という思いから始まります。加えて、「社員が新しい仕事に対して消極的でチャレンジ精神がない」「営業が弱い」という思いもあるかもしれません。
そうしたとき、現場が資料を作ることもありますが、経理部で売上データを抽出し、新規の取引先名と担当者名だけを記載し、「合計〇件」と作成する場合もあります。そのときに件数だけを載せて、他の指標を出さないでいると、どのようなことが起こるでしょうか。
現場社員は、簡単に契約をとれそうな会社、あるいは簡単に契約をとれそうな金額の範囲で仕事を受注していく方向に進んでいきます。
なぜなら、その資料には「件数だけ」しか載せていないからです。