「ここ数年間の、マレーシア材の仕入れと販売実績を改めて調べてみたんだ。去年は250万ドルを越えていたが、今年は200万ドルそこそこ。現地経費として4パーセントを計上しているから年間8万ドル、なんとか君の駐在経費はペイできている。しかし、来年も減少傾向であることは否めないな」
「はあ、すみません」
いきなり核心を衝かれて、幸一は頭を下げた。
「いや、君が謝る必要はない。売れないのは、ウチの営業の力不足だ。それに、これはマーケットの問題でもある。マレーシア材は内装用の造作材や家具用材、つまり色物がメインだから、どうしても景気に左右されてしまうので仕方あるまい」
「それで、メルサワからも手を引かれるということですね」
幸一の言葉には幾分恨みがましい色が含まれていた。
「うむ、マレーシアの取扱量が2割から2割減となる。そうなると……」
「私の駐在経費もペイ出来なくなる」
先回りした幸一の言葉に、岩本は頷くだけで応じた。
「今年いっぱい、今月末で嘱託契約が切れる私はクビ、ということですか?」
思い切って発した幸一の言葉を聞き流すように、岩本はコーヒーを口に運び口中を湿らせてから、ゆっくりと話し始めた。
「その逆で、是非、君には正社員になってもらいたいんだ」
「正社員に……?」
思いがけない申し出に、今度は幸一が喉の渇きを覚えた。
「ウチの社内を見回しても、君のような国際派の人間は他に見当たらない。実は、中国でアカ松を二次加工まで行い、大手ハウスメーカーへ供給するというプロジェクトを始めることになってね。そこで、君に正社員として中国に駐在してほしいと考えているんだが……。君は、中国語も堪能だったよね」
「シンガポール暮らしが長かったので、ある程度は話せますが、しかし……」
躊躇いがちに話す幸一を遮って、岩本が話を進める。
「君が東南アジアに、シンガポールやマレーシアに愛着があるのは知っている。だが、現実の商況はさっきも話した通りで厳しいんだ。我が社としては、経営を安定させるために、大手ハウスメーカーの大量かつ継続的な受注を獲得するというのが悲願だった。先月、ようやく東洋ハウスの資材部長さんらを引っ張り出して、一緒に大連へ出張することができたんだ。我々の提案に乗り気になってくれてね、材料の規格変更や品質管理部への根回しが出来たと、先日ゴーサインをもらった。それで、急遽君に帰国してもらったんだよ」
「東洋ハウスさんですか、確かに大きい顧客となりますね」