「ひとつは、政府の意思でしょう。かつては貯蓄広報中央委員会の存在がありましたが、今もまた、政府は国民に預貯金をしてもらわないと困る状態です。政府が大量の資金を個人から借りて使うという方針を実行しているわけですから。国の予算はその典型例です。そしてもうひとつは、日本経済の問題です。この20年で世界中のほとんどの国のGDPは大きく伸びましたが、日本のGDPはほとんど変わっていません。短期的には、GDPと株価は必ずしも連動しませんが、付加価値の総和であるGDPと、自由資本主義体制で付加価値を生むメイン・エンジンである上場企業の時価総額の和が連動しないはずがありません。長いスパンでは、GDPと株価には強い相関があります。個人が株を買わないのは、日本経済が成長しなかったからだということです」

 しかし、このままで良いのだろうか。

構造的な問題は何も解決していない

 このままでは国が危うくなる、という危機感とともに行われた金融自由化、そしてオンライン証券の誕生。

 目指したのは、特定の一部の人がお金の向かう先を決めるのではなく、できるだけたくさんの人が、自分でお金の向かう先を決めることだった。それが、民主的なお金の流れをつくる、そしてそれが国そのものが担う巨大なリスクを避ける一方で効率的なお金の流れをつくり、国を成長させていく、という考え方だった。

 以下は、2003年12月24日に、首相の諮問機関である金融審議会が「市場機能を中核とする金融システムに向けて」と名付けて提出した報告書の一部である。

 『日本では長きにわたり貯蓄促進が重要な政策目標であった。経済全体として資本不足の時代には、政策的優先度に応じて産業に資金を供給することが金融システムの課題であり、そこで資金仲介の大宗を担ったのは銀行である。資本が十分に蓄積された現在、ライフステージに応じ可能な限り有利に運用したいという個人の希望に応えるためには、魅力ある多様な運用対象を、的確な情報とともに、これに投資する知識を備えた個人に提供する必要がある。また、今後、何が21世紀の日本のリーディング産業になるのか不透明な状況下で、リスクマネーの効率的かつ積極的な供給を促し、日本企業の発展を金融面から支えていかねばならない。銀行のリスク負担能力が限界に達しつつあるなかで、強靱で高度なリスクシェアリング能力を持った市場中心の金融システムに再構築していくことが日本経済の発展にとって不可欠であり、そのためには、資金を供給する個人の意識変革を政策として遂行していく必要がある』