介入がなければ円高になる

 格別の政策がとられない場合には、つぎのようなことが起きて需給が調整される。

 国内投資の増大は、クラウディングアウトを引き起こす。これが金利を上昇させる。それによって海外から資金が流入し(あるいは海外への資金流出が減少し)、円高になる。それが純輸出(輸出-輸入)を減少させる。

 この変化は、つぎの2つの部分に分解して解釈することができる。

 第1は、国内総生産(GDP)を変化させずに、需要項目を輸出から投資に入れ替える変化だ。第2は、国内投資の増加に対して、供給(海外生産=輸入)を増やす変化だ。

 なお、以上の結論は、開放マクロ経済における標準的なモデルである「マンデル=フレミング・モデル」の結論(「開放経済においては、財政支出を増やしてもGDPは増えない」)と同じものだ(*1)

 以上は政策介入がない場合だが、実際には円高を嫌う政治的バイアスがあるので、円高阻止政策がとられる可能性が強い。実際、すでに3月18日に介入が行なわれた。震災直後に名目円ドルレートが史上最高値を更新したのは、投機的な動きによるものであったため、介入はやむを得なかったとも言える。

 その後、欧米での金融引き締め観測から、円安が進んだ。しかし、今年の秋頃から復興投資が本格化すれば、右で述べたメカニズムによって円高になる可能性が高い。そうなれば、再び円高を阻止する政策がとられるだろう。そのために金融を緩和すると、純輸出の減少が介入のない場合より圧縮される。

 しかし、それでは経済全体の需給が均衡しないので、純輸出が減らない分だけ国内支出を抑制する必要がある。具体的には、金利がさらに上昇して国内の復興投資が阻害されるか、あるいは、金融緩和に伴うインフレによって消費支出が減少する。

 増税を行なって消費支出を減少させれば、この変化は減殺される。これは、復興予算の財源を考えるにあたって、重要なポイントだ。国債増発すれば問題が深刻化するので、税を用いる必要があるのだ。「災害に乗じて増税するのは許せない」という類の意見がある。増税に対しては、誰でも反対したい。しかし、これはマクロ経済のバランスを無視した議論である。これについての具体的な議論は、第4章で行なう。

 なお、対外資産の取り崩しも、海外からの資金流入をもたらし、円高を引き起こす。つまり、形式的には異なる財源調達だが、マクロ的な効果は同じである。

(*1)野口悠紀雄、『世界経済危機 日本の罪と罰』(第3章、解説3-3)、ダイヤモンド社、2008年。