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日本唯一のDRAM(半導体メモリ)メーカー、エルピーダメモリによる資金調達が、証券界に一つの波紋を広げている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券(旧三菱UFJ〈MU〉証券。以下、MUモルガン)が、資本提携先の米モルガン・スタンレーに不信感を抱いているというのだ。
7月11日、エルピーダは公募増資と、転換社債型新株予約権付き社債(CB)を発行し、総額約800億円を資金調達すると発表。震災後最大規模となるだけに、証券界では話題を呼んだ。
これら資金調達の主幹事証券には、大和証券キャピタル・マーケッツとモルガン・スタンレーMUFG証券(旧モルガン・スタンレー証券。以下、モルガンMU)の2社が食い込んだ。
ところが、である。旧モルガン証券が共同主幹事に名を連ねているにもかかわらず、旧MU証券が主幹事以下の引受幹事にさえ入れてもらえなかったことで、MUモルガン側が反感を強めているのだ。
というのも、三菱UFJフィナンシャル・グループとモルガンが共同出資するMUモルガンとモルガンMUの国内証券2社は、日本企業が世界の投資家から資金調達する場合、国内調達は旧MU証券、海外での調達は旧モルガン証券が担当するという役割分担で契約を締結していた。
この契約に則れば、国内で35%、海外で65%を調達するエルピーダの公募増資についても当然、国内分に関してはMUモルガンに任されるはずだったのだ。
にもかかわらず、主幹事以下の引受幹事には野村證券、みずほ証券、そしてSMBC日興証券の名前だけで、MUモルガンは完全に蚊帳の外。それゆえ「モルガンにとって三菱UFJは不要ということか」と、国内の機関投資家からも訝る声が上がっている。
さらにCBに至っては、すべて国内で調達を予定しているにもかかわらず、これまたMUモルガンがはずされていることから、「意図的に三菱UFJを排除したとしか思えない」と、あるMUモルガン関係者は怒りを露にする。
そもそも三菱UFJは、リーマンショック後の2008年10月、経営危機に陥っていたモルガン本体に90億ドルもの大金を出資して救済。それに伴って、国内証券2社については全面統合を計画していたが、結局断念してしまったという経緯がある。
そのため両社は、これまで「2社体制でうまくいく」と豪語してきた。しかしその水面下では、それぞれ別々に機関投資家や企業に営業をかけ、「顧客を奪い合っている」(MUモルガン幹部)のが実情で、協働というよりむしろ火花を散らしていたというわけだ。
エルピーダの大規模な資金調達案件は、まさにこうした両社の本音と建前のチグハグさが表れた象徴的な事案だったといえる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)