会話は「○○さん」から始めよう

 身体も回復し、仕事にも慣れてきた頃、ぼくは再び「この人とは合わないな……」と感じる上司の下につきました。身体を壊したときの上司に比べるとマシなのですが、それでも、ぼくのほうを見ずに話したり、あまり話を聞いてくれなかったりと、関係は悪かったと言えます。

 そんなときに出合ったのが、「意識的に名前を呼ぶ」という方法でした。人は自分の名前に愛着があり、名前をたくさん呼んでくれる人に親近感を持つというのです。「本当かな……」と若干疑いながらも、ほかにこれといった方法を知らないぼくは、それを愚直にやり続けることにしました。指示の確認をするときも、進捗報告をするときも、飲み会で話すときも、絶対に「○○さん」と名前を呼ぶようにしたのです。

 すると、目に見えて効果が出てきました。ほとんどこちらを見て話さなかった上司が、じわじわとぼくのほうを向いて話してくれるようになり、ぼくの意見を尊重してくれるようになったのです。そのときは、「なんでこんなに効果が出るんだ!」と驚きましたし、たまたまこの上司だからうまくいったのだろうと思っていました。

 しかしいま、自分がマネジャーの立場になって思うのは、この手法は本当に効果的だということです。あなたも、実際に自分が上司の立場になったと想像してみてください。「あの、すみません……」とおずおずと話しかけてくる部下と、「○○さん、いまよろしいでしょうか」と話しかけてくれる部下がいるとしたら、どちらに好感を抱くでしょうか。明らかに後者だと思います。自分の名前をちゃんと呼んでくれる人には、好感を抱いてしまう習性が人間にはあるのです。

 萎縮するあまり「あの……」としか声をかけられない気持ちはよくわかりますが、そこをまず「○○さん」で始めてみましょう。一回一回の効果は薄くても、それが積み重なると、圧倒的な差が生まれます。1週間、1カ月と続けていくうちに、いつのまにか上司との関係が改善していくことを実感できるはずです。