だが「貨幣が“ショートカット”される」そのこと自体に、信用経済の存在価値がある。今後、資本主義における貨幣の価値とその母体となる信用が、強固に監視されるようになることを、僕は強く期待している。

「資本主義」と「信用主義」の戦いの
ど真ん中を生きている

 世界は今、「貨幣経済」と「ネット環境」が成熟を目指してせめぎ合う只中にいる。そしてそれは「資本主義」と「信用主義」の戦いでもある。

 両者の違いのイメージは下図のようになる(図2)。

【 図2 】


  左図はいままでの「資本主義」を表している。お金という信用を内包する媒体を介して、AさんとBさんが互いに価値交換を行う世界である。右図は、「信用主義」社会における価値交換のやり方だ。お金ではなく、ネットワークと可視化されたAさんとBさんの双方の信用の範囲で、直接価値を交換するというものだ。

 信用主義の世界では、そこに適合するリテラシーが必要だ。つまり、本コラムで再三述べている「お金を得る」のではなく、「信用」を養い、「ネットワーク(紐帯)」を作るということだ。

 例えば、大学を出て3年に満たないある友人は、この夏、ヨーロッパ旅行に出かけた。彼は結局、一ヵ月の間ホテル代を払うことなく、自分のネットワークから宿泊先を見つけて旅を楽しんだという。その間、自分の日本での活動や旅の体験を話して家主を楽しませ、一緒にいる時間を有意義に過ごした。宿泊先は古くからの知人や親戚などでなく、たまたまネットで出会って意気投合したり、知人の知人による紹介だった。

 これこそが、お金を使うことなく信用によって飄々と爽やかに、世界を文無しで股にかけて生きるリテラシーを持っている生きた事例だ。できるだけお金を介さない形で物事を実現する方法を考え、愚直に実践してゆくことが、信用主義社会のリテラシーを学ぶ最高の方法である。

 もちろんこれは無償の“ボランティア”などという、旧時代的で偽善的なものではない。「信用」と「紐帯」が可視化されトラッキング(記録)される世界では、タダで仕事をすること(価値を提供すること)は信用の蓄積とネットワークの構築に寄与するための合理的で自己利益的な行為なのだから。


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