コストカットを尽くしても、国内生産はもはや限界──。
半導体大手のエルピーダメモリが「円高とDRAM不況の緊急対策」を発表した。パソコンに使う汎用品のDRAMについて、主力の広島工場から台湾子会社の瑞晶電子(レックスチップ)へ生産ラインを丸ごと移転することを検討。国内生産の最大4割が流出し、台湾の生産量が日本を上回ることになりそうだ。
「まるで水より安い値段」と社員自ら皮肉るほどに、ここ1年間のDRAM市況は低迷してきた。パソコン向けDRAM(2ギガビット)の価格は、昨年秋に3ドル超だったが、1年間で1ドル近くまで急降下。この背景にはパソコン不況などによる供給過剰がある。1チップ当たりの製造コストは1.3~1.4ドルと見られており、「原材料のシリコンウエハを製造ラインに投入した瞬間、赤字が確定する」(業界関係者)という消耗戦が続いているのだ。
DRAMは日韓米の4大メーカーが世界シェアの過半を占めている。韓国サムスン電子の37.4%を筆頭に、韓国ハイニックス半導体(21.4%)、エルピーダ(16.2%)、米マイクロン・テクノロジー(12.6%)と続く(2010年度売上高ベース、IHSアイサプライ調べ)。
汎用品の主な競争軸は規模のメリットを出すための巨額の設備投資と、生産効率を上げる微細化技術の二つ。市況回復を待って利益を得るには、いたずらにシェアを落とすわけにいかない。そんな過酷な“チキンレース”にあって、未曾有の円高がエルピーダに追い打ちをかけているのだ。
同社によると、1円の円高で年間30億円の為替差損が発生する。昨秋に1ドル85円ほどだったのが、現在76円前後まで円高が進んでいる。公的資金の注入も受けている日の丸半導体メーカーにあって、ウォン安の追い風に乗る韓国メーカーを前に、苦渋の台湾シフトを検討せざるをえなかったわけだ。
そんな逆境下のエルピーダだが、生産移転に加え、生き残るために期待される“次の一手”がある。シェア下位ながら、現金確保のために投げ売りをしたり、ノンブランド商品によって価格下落に拍車をかけてきた台湾中小メーカーの「整理整頓」だ。
これまで提携外だった台湾大手コングロマリット傘下のメーカーがいよいよ赤字や技術進歩で行き詰まり、高い技術力やノウハウを頼りに「8月にエルピーダ首脳に面会し、傘下入りを打診している」(業界関係者)という。成立すればDRAM市場の健全化を促し、韓国メーカーに対するプレゼンスも高まるシナリオもありうるというのだ。
逆境下で、エルピーダがどのような生き残りのシナリオを描いていくのか、目が離せない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)