統合の過ちを回避する
どのように被買収企業を統合するかは、ほぼ例外なく買収のタイプによって決めるべきである。買収の目的がビジネスモデルの改善であるならば、通常、被買収企業のビジネスモデルを解体し、業務プロセスに組み込むべきである。これは、シスコが技術を買収した際にやっていることである(もちろん例外もある。たとえば、被買収企業の業務プロセスがきわめて価値が高い、もしくは独自性が高い場合、買収企業のそれと取り替える、あるいは付加される)。
しかし、ビジネスモデルの買収が目的である場合、そのビジネスモデルをいじらないことが肝要である。最もよく見られるのが、統合しないで運営するケースである。これは、ベスト・バイがPC修理サービスのギーク・スクワッドを買収した時にやったことで、ロータッチで利益率の低い小売事業と並行して、ハイタッチで相対的に高コストのサービス・モデルを別会社として運営した。
同様に、ヴイエムウェアのビジネスモデルはサーバーに焦点を絞ったものだが、EMCのストレージ業界のビジネスモデルとは一線を画するものだったため、組織のなかに組み込まないという選択を下した。EMC本来のビジネスモデルは引き続き好業績を上げていたが、ヴイエムウェアの破壊的ビジネスモデルのおかげで、EMCは桁違いの成長率を実現した。
被買収企業の価値はどこにあるのかを理解せず、それゆえ間違って統合を進めた結果、M&A史最悪といわれる悲劇がいくつも生み出されてきた。ダイムラー・ベンツは98年、360億ドルでクライスラーを買収したが(ダイムラー・クライスラーに社名変更)、これなどはその典型である。
自動車メーカーによる同業他社の買収は、古典的なLBM型のようだが、そう見たことが命取りになった。クライスラーは、だいたい88~98年まで、積極的にモジュール化を推し進め、サブシステムを組み合わせて自動車を生産し、またこれらサブシステムの開発は一次サプライヤーにアウトソーシングしていた。
これによって設計プロセスは大幅に単純化され、クライスラーは設計サイクルを5年から2年(ダイムラーは約6年)に短縮しただけでなく、設計業務の間接費をダイムラーの五分の一に削減した。その結果、クライスラーはこの間に、人気車種を次々に発表し、市場シェアを毎年一ポイント近く向上させた。
ダイムラーがクライスラーの買収を発表すると、証券アナリストたちは「シナジー」の大合唱を始め、ダイムラーも両社が統合すれば80億ドルもの重複コストが削減されるだろうと応じた。
しかしダイムラーが、クライスラーの経営資源──ブランド、ディーラー網、工場、そして技術──を自社の業務プロセスに組み込むと、クライスラーの成功基盤とともに、買収の真の価値、すなわちクライスラーのスピーディなプロセス、無駄のない利益方程式は失われた。ダイムラーは、別組織としてクライスラーのビジネスモデルを維持していれば、はるかに優れた業績を上げていたことだろう。