「東北の問題は、東北だけの問題なのか?」

 僕が仙台行きを決意する前、東京でこう疑問を投げかけた人 がいる。日本にいちはやく「社会起業家」というコンセプトを持ち込んだ慶應大学 の特別招聘准教授、井上英之だ。

 井上は、「誰のための原発だったの?」という疑問を投げかけ、さらに「誰もがフリーライダーになっていないだろうか?」と問いかけてくる。僕達の経済はつながっているんじゃないのか、「東北の問題」が東京の問題じゃないなんて、どうして言えるのか、と。

 井上はさらに続ける。「そうだとすれば、誰もが当事者である、と考えてみてもいいんじゃないんだろうか」と。そう、できることは違うかもしれない、けれど、自分の問題として考えてみてもいいんじゃないか。

 この問いかけこそが、僕らに新たな視点をもたらしてくれる。僕らは、市場や行政がなんとかしてくれる、ということを、暗黙のうちに決めてしまっていないだろうか。そこで思考をストップしてしまってはいないだろうか。誰もが責任ある主体者であるにもかかわらず、誰かがなんとかしてくれると、行動を止めてしまっていないだろうか。

 そう考えると、渡辺がやろうとしている事業の意味が見えてくる。渡辺は言う。「震災の被害から復興するには10年かかる。東北そのものの復興を考えると数十年はかかるだろう。その時に必要なのは新しいリーダーだ。彼らが育つ機会がいま、ここにあるんだ

 この渡辺の言葉は、誰かがリーダーになって問題を解決すればいいのだ、ということではない。彼は「誰もが当事者であるべきだよね」と何度も僕に告げた。「被災者」が主体的に歩き出し、自らの困難を自らのものとして受け入れ、前に向いて歩き出すということ。また、東北の問題を東北という地域で完結させないこと。言い換えれば、日本の問題、ひいては、世界の問題として捉えてみようではないか、ということ。それが井上や渡辺のメッセージなのだ。

 もし、東北が「復興」できるのだとすれば、それは、同様に衰退に苦しむ地域、もしくは大規模の災害から復興を目指す地域に対して、勇気を与えてくれるのではないだろうか。そして、この東北においていち早く「持続可能な地域」が実現されたなら、それは縮小均衡にあえぐ日本の将来だけでなく、経済危機に悩まされる世界の行く先にも良い影響を与えれるだろう。

 世界はもう、右肩上がりには成長しない。その中で、希望あふれる未来をつくっていくのは「誰」なのか。それは、東北だけの問題なのか。いや、むしろ東北は、日本を悩ませる問題にいち早く向き合っているだけではないだろうか。渡辺一馬、彼のように主体的に一歩を踏み出した者が、日本の、いや世界の人々を巻き込みながら、解決困難に見える多くの問題にいち早く答えを出すのだと僕は信じている。

加藤徹生(かとう・てつお)
1980年大阪市生まれ。
社団法人wia代表理事/経営コンサルタント。
大学卒業と同時に経営コンサルタントとして独立。以来、社会起業家の育成や支援を中心に活動する。 2009年、国内だけの活動に限界を感じ、アジア各国を旅し始める。その旅の途中、カンボジアの草の根NGO、SWDCと出会い、代表チャンタ・ヌグワンの「あきらめの悪さ」に圧倒され、事業の支援を買って出る。この経験を通して、最も厳しい環境に置かれた「問題の当事者」こそが世界を変えるようなイノベーションを生み出す原動力となっているのではないか、という着想を得、『辺境から世界を変える』を上梓。
2011年6月末より、東北の復興支援に参画。社会起業家のためのクラウドファンディングを事業とする社団法人wiaを、『辺境から世界を変える』監修者の井上氏らとともに9月に立ち上げた。
twitter : @tetsuo_kato

 

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「何もないからこそ、力もアイデアもわくんだ!」(井上英之氏)
先進国の課題解決のヒントは、現地で過酷な問題ー貧困や水不足、教育などーに直面している「当事者」と、彼らが創造力を発揮する仕組みを提供するため国境を越えて活躍する社会企業家たちが持っている。アジアの社会起業家の活躍を通して、新しい途上国像を浮き彫りにする1冊。
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