予測とは正反対のことが起こり
結果的にそれが良かったと思えることもある

 主治医といえども、私の立場では離婚について口を挟むことはできません。

 あくまでも患者さん個人の問題なので、「思いとどまったほうがいい」とも「ぜひそうすべきだ」とも言えません。 

 ところが、すぐに家を出て行くことを要求されるなど、離婚に関する条件はあまりに理不尽なものでした。彼女の当面の生活を守れないかと考え「日本司法支援センター(法テラス)」を紹介しました。

 法テラスは、国が設立した法的トラブルを解決するための相談窓口です。最近では、診察室で受ける悩みも複合的になってきているので、精神科としての診療を超えてしまう部分については、専門窓口を紹介することが増えているのです。

 法テラスから「きちんと離婚調停にかけて財産分与を受けたほうがいい」と助言された女性は、私の診察室でも「気は進まないけれども、調停に踏み切ることにしました」と語っていました。

 調停の日から最初に訪れた診察日、女性に調停の顛末を尋ねると、女性は思いがけないことを口にしたのです。

「お恥ずかしい話ですが、向こうが離婚を取り消してほしいと言ってきたのです。私としてもそのほうがありがたいので、離婚はやめることにしました」

 よくよく聞くと、離婚調停に関する書類を目にした旦那さんは、ふと我に返ったといいます。事の重大さに気づき、女性に謝罪したそうです。

 私としては、離婚して人生をリセットすることは、女性にとって悪くない選択だと考えていました。ところが、現実は水際で大逆転劇が起こったのです。逆転するどころか、離婚話が持ち上がる前の冷えた関係も改善し、家庭内別居も解消されたそうです。

 長く診察室に通っていた患者さんだったため、私も気心が知れていました。そんなこともあって、ついこんなことを口走ってしまいました。

「へえ~、それは良かったですね。でも私も一生懸命やってきたから、ちょっと拍子抜けしちゃったなあ」
「へへへ、すいません」

 もちろん、離婚そのものは計画外だったことでしょう。

 しかし、離婚を決意してからの展開は、まったく計画したことと違う展開でしたが、この女性にとっては歓迎すべき結果になったのです。