現場と「複雑な問題」を共有するのが第一歩

 しかし、このようなリポートは、現実にはまったく機能しません。
 現場とがっぷり四つに組み合っていないのだから当然です。
 成功事例の工場では最新式の機械が導入されているが、この工場では型が古いのかもしれない。工場の動線の設計が悪くて、従業員に目に見えない過重な負担がかかっているのかもしれない。寒冷地の工場と温帯地の工場では、工場内の気温も違います。快適な温度のなかで働くのと、うだるような暑さのなかで働くのとでは、体力の消耗度は大きく異なります。こうした条件を考慮に入れない解決策など机上の空論。役に立つはずがないのです。

 あるいは、工場が立地する地域特性も大きく影響します。
 たとえば教育。先進国であれば、「労働倫理」「効率性」「品質」などの観念を教育された労働者がたくさんいますが、発展途上国ではそれが難しいことがある。その場合、これらの観念を現場で教育していくほかありません。

 さらに、組合が強い国では、生産性向上のために従業員の協力を得るのも一苦労。組合との信頼関係を築くためには、大汗をかかなければなりません。こうした環境の違いも、大きなハンディキャップになります。これらの現実をすべて認識したうえでなければ、正しい解決策など導き出せるはずがないのです。

 もちろん、これは製造現場だけで起こる問題ではありません。
 これと同じ現象は、販売部門や業務部門などあらゆる部門で起きます。あるいは、親会社と子会社の間でも同様です。にもかかわらず、安直に「理路整然とした解決策」を現場に無理やり当てはめようとすると、現場のメンバーに過重な負荷をかけるだけという結果を招き、執行部と従業員の間に亀裂が生じるとともに、本社と工場の間にも拭い難い不信感が生まれるでしょう。会社を根底から壊しかねない、きわめて危険な状況を招いてしまうのです。

 もちろん、本社スタッフに悪意があるわけではありません。問題なのは、リーダーの認識です。理路整然としたリポートには、常にこのようなリスクがあることを認識していないリーダーの鈍感さが問題なのです。リーダーたるもの、現場からのリポートが要領を得なかったにもかかわらず、本社スタッフのリポートで急にすっきりと理解・納得できたならば、むしろ要注意だと厳に心すべきです。