「集中力というかたちのないものをどのように磨いていくのか?」「筋トレみたいな方法はないのか?」、そのような問いから始まった集中力を向上させる方法は確かにありました。まずは、集中力を構成する4つの柱を理解することが大事です。
本連載では、脳の仕組みを活用した世界水準の集中力を磨く技術が網羅されている新刊『世界記憶力グランドマスターが教える 脳にまかせる超集中術』から集中術のエッセンスを紹介していきます。
集中力を上げるために、何を鍛えればいいのか?
それがどんな能力かは、なんとなくイメージできるのですが、単純にこれをすれば集中力自体が向上するといった方法があるとは、とても思えなかったのです。
そこで、いくつかの要素が存在していると仮説を立ててみました。それぞれの要素が見つかれば、それらを個別に鍛えることによって、最高の集中力を発揮することができるはずです。
惨敗した香港大会をモデルにして自分がとったアプローチを再現し、そこから鍛えるべき要素を探ることにしました。
1つめの柱「メンタル」をコントロールする
記憶力日本一となり、続く初めての国際大会オーストラリアオープンでも優勝した私は、かなり自信を持って香港大会に臨みました。しかし、競技前にイメージしていた「自分はできる」という感覚と競技が始まってすぐに感じた「いつもと何か違う」という感覚とのギャップが、軽いパニックを起こさせたのでした。
このときはまだ、3度目の挑戦です。経験が少ないため、何が起こっているのかわからず、俗にいう頭が真っ白になってしまいました。
この状態になると、当然ながら、著しく記憶の能力が低下します。
大会2日目になると、今度は不安が襲ってきました。「今日も調子が出なくてひどい結果になったらどうしよう」という気持ちを払拭することができず、不安が緊張を呼び、また不安になるという悪循環を繰り返しました。
結局、心の動きの波に翻弄され続けて、2日間の競技が終わりました。
これらのことから、集中力を発揮するためには、メンタルのコントロールがとても大きく影響していることを実感できました。
間違いなく「メンタル」の安定が集中力の構成要素の1つであることを確信したのでした。
2つめの柱「注意力」を上げる
勉強や仕事で、「今日は長い時間、集中できたなあ」と感じることがあります。
しかし、その時間ずっと同じレベルの集中が続いていたかというとそうではありません。
集中のレベルは一定ではなく、高くなったり低くなったりを繰り返しています。
課題や作業が長時間にわたる場合には、この波をうまくコントロールする必要があります。
脳しか使わない記憶競技をしていると、このことがより強く実感できます。
香港大会での私は、この点でも失敗していました。
その日は会場の隣の学校から賛美歌が聞こえてきたのです。それは本当にかすかな音量でした。調子がいいときであれば、音に気づいても、すぐに競技に意識を戻すことができます。しかし、そのときの私は意識を戻そうとしても、どうしても音が気になって目の前の競技に集中することができませんでした。
これが引き金となり、音が流れなくなってからも雑念が浮かび、かなり苦労しました。これによるタイムロスも大きかったと思います。
集中レベルは一定ではないので、作業の途中で集中度が低くなっても構わないのです。
大事なのは、そのとき、自分の集中が低くなっていることに気がつけること、よくいわれる「メタ認知能力」が働くかどうかなのです。これが働かないと、いわゆる「うわの空」の状態になってしまいます。
このことから意識が逸れそうになったら、それに気づき、さらにその意識を元に戻せる「注意力」が、集中力のキープには欠かせない要素であると考えました。
3つめの柱「モチベーション」を高める
前に書いたように、香港大会に出場を決めた理由はその後開催される世界記憶力選手権で記憶力のグランドマスターを獲得するためであり、本番の感覚を忘れないためでした。
つまり、香港大会自体に対しては、明確な目標設定がされていなかったのでした。
今の私であれば、何か目指すものがあるときにはまず大きな目標を立てます。その目標と現在の状態のへだたりからそれを埋めるべく、ゴールから逆算して綿密に戦略を考えます。そして、最後に目標を達成するためにやるべきことを日課レベルまで細かく具体化して設定します。
そうすることによって、やる気を持って日々の課題に取り組むことができます。なぜなら、それがゴールとつながっていることが、脳で理解できているからです。やる気を持って課題に取り組めるため、練習でも仕事でも、毎回内容の濃いアウトプットにつながり、それが積み重なって、最終的には目標達成に近づくことになります。
モチベーションが低い状態で行う課題のパフォーマンスは極端に低下します。
目標を例に挙げましたが、これ以外にも「モチベーション」を高める要素はたくさんありました。
4つめの柱「コンディション」を向上させる
今まで紹介してきた3つの柱は、すべて自分の中から生み出されるものです。しかし、
集中力は外からの影響もとても大きいのです。
香港大会では、会場の温度が影響しました。
大会は9月開催で香港はまだ暑いために、会場はクーラーがついていたのですが、非常に寒かったのです。記憶のためには環境の温度は低めがよいのですが、このときは冷えすぎでした。これも集中力低下の1つの要因であることは間違いありません。
少し前に会場に音が流れてきた話をしましたが、音も集中力に影響を与える外部からの要因です。勉強や仕事をしているときに、音は集中力とどう関係しているのでしょうか。これ以外にも外部から集中力に影響を与える要素はたくさんあるはずです。それらも検討の対象から外すわけにはいきません。
最適な集中環境を構築するためにも、それらの要素を探し出す必要がありました。
やはり決め手は「脳」だった
こうして集中力を構成する「メンタル」「注意力」「モチベーション」「コンディション」の4つの柱を見つけることができました。あとはこの柱をいかに頑丈にしていくかです。
そのために、柱を構成している要素を探り、集中力アップにつながる具体的な方法を見つけていきました。
そして、それらの方法を用いてトレーニングを続けた結果、世界記憶力選手権で最も時間の長い競技である「1時間ナンバー」「1時間カード」においてそれぞれ3時間、合計6時間にわたって集中を切らすことなく、グランドマスター獲得の条件である1000以上の数字の記憶、10組以上のトランプの記憶に成功することができたのでした。
最大の成果は、何といっても初優勝から出場した4度の記憶力日本選手権大会すべてで優勝することができたことです、集中力が関係しているのは言うまでもありません。
集中力について調べていくと、さらに面白いことがわかりました。
「記憶力」とは別の能力である「集中力」ですが、集中力を高めるということは、脳の特性にかなり依存していることがわかったのです。やはり、集中力を高める決め手も「脳」だったのです。脳の特性にあった方法をとることが、集中力向上の近道なのです。
『世界記憶力グランドマスターが教える 脳にまかせる超集中術』では、それぞれの柱に対してどうすれば能力向上ができるのか、その具体的な方法をお伝えしています。また、次回から集中力をあげるワザを紹介していきます。