なぜ、リーダーは必然的に「裸の王様」になるのか?

 なぜ、リーダーは必然的に「裸の王様」になるのか?
 当然のことですが、リーダーが権力を有するからです。どんな人間も、権力を前にすれば、危害を加えられないように防衛的になります。そして、「何が正しいか?」よりも「どうすればリーダーが喜ぶか?」を基準に行動し始める。その結果、リーダーにとって「心地いいこと」だけが知らされて、本当のことが知らされない状況が生み出されてしまうのです。

 注意しなければならないのは、リーダーが意識的に権力を行使しようと意図していないときでも、部下の目にはリーダーの背後に権力が常に見えているということ。つまり、リーダーのほんのわずかな無意識的な反応からも、その真意を汲み取って、それに応えようとしてしまうのです。ここに落とし穴があります。この点に自覚的でなければ、権力を振りかざすような人物でなかったとしても、知らず知らずのうちに「裸の王様」になってしまうのです。

 組織というものは、良くも悪くも権力がなければ統制することはできません。つまり、組織には「裸の王様」を生み出すメカニズムが埋め込まれているということ。だからこそ、リーダーは必然的に「裸の王様」になるのです。

 私自身、社長になってから恐くなったことがあります。
 たとえば、ある経営課題に対して、甲乙つけがたい2つの案が上程され、直感的にB案よりもA案に好感をもったとします。このとき、私も人間ですから、A案の説明を受けているときに、無意識に嬉しそうな表情が出てしまう。これが危ないのです。なぜなら、部下は瞬時にその表情に反応して、その場の空気が「A案優位」に傾いてしまうからです。

 そして、本来は、A案B案のメリット・デメリットを慎重に検証するためにディスカッションをしなければならないはずなのに、部下からA案推しの意見が相次ぎ、結論が自然とA案に導かれてしまう。このメカニズムに無自覚だった私は、きちんと議論した末にA案に決まったと思っていたけれど、実はそうではなかった。私の意向に沿った“出来レース”だったと、あるとき気づいて愕然としたものです。そして、「こうして、“裸の王様”になっていくんだな」と背筋が凍るような恐さを覚えました。

 それ以来、いかなるポジションの者が報告する場面でも、いかなる報告内容であっても、絶対に表情や態度を変えないことを徹底してきました。自分のなかでは結論がわかっていると思う場面では、無意識のうちに私の思いが相手に伝わりやすいから、なおさら注意が必要。その瞬間に、どんな部下にも“忖度”が働いてしまうからです。リーダーは常にポーカーフェイス。これを徹底すべきなのです。