優れたリーダーは、「絵描き」に似ている
その意味で、リーダーは「絵描き」に似ていると思います。
私は学生時代に美術部に入って絵を描いていましたから、それとの相似を考えるせいかもしれませんが、真っ白なキャンバスを前にしながら、「どんな絵を描こうか?」と仕上がりをイメージするのと、リーダーとして「あるべき姿」を思い描くのは非常に似ていると思うのです。
まず重要なのがキャンバスの存在です。
絵を描くキャンバスに面積という制約があるのと同様に、リーダーが理想を描くフィールドも無限ではありません。そこには必ず、予算、人員、期限などの制約がある。その限られたキャンバスに、どのような構図で「あるべき姿」を描くのがベストなのかをイメージするわけです。
たとえば、私がタイ・ブリヂストンCEO時代に第2工場建設を提案したときであれば、当時のタイ・ブリヂストンの用意できる資金等のリソースを見極めたうえで、それが許容する範囲内で、労働環境、環境への配慮、生産効率などあらゆる側面で「世界的なモデルとなりうる工場」「従業員、取引先、地域の話題・誇りになる工場」をイメージ。私なりに、大ざっぱなデッサンをするように「あるべき姿」を描き出しました。
この段階ではデッサンで十分です。
もちろん、メンバーのやる気をかき立てるだけの魅力と説得力を備えている必要はありますが、あまり細かいところまで描き込むのは弊害のほうが大きいでしょう。能力的な限界も当然ありますが、なによりも、リーダーひとりで細部まで決めてしまうと、メンバー個々人がオーナーシップをもつ余地をなくしてしまうからです。
むしろ、リーダーが注力すべきなのは、「あるべき姿」のコンセプト──「世界的なモデルとなる工場」「関係者の話題・誇りになる工場」をつくるというコンセプト──を明確に打ち出すこと。そして、メンバーに「こんな工場をつくりたいんだけど、力を貸してくれないか?」と投げかけ、個々人の貢献意欲を引き出すことこそが重要なのです。
そのうえで、リーダーが描いたデッサンをベースに細部を描き込んでいくわけですが、この段階ではメンバーにどんどん参加してもらうのがいい。そして、あまり細部をコントロールしようとするのではなく、徹底して彼らの意見に耳を傾けることが大切です。
なぜなら、細部を熟知しているのは、いままさに現場にいる彼ら以外にはいないからです。リーダーの示した「あるべき姿」のコンセプトに共感してもらいさえすれば、必ず「ここはこう描くべきだ」ときめ細かなアイデアを提示してくれます。それを、どんどん取り入れて「あるべき姿」を緻密に描き込んでいけばいいのです。