主人公の少年たちに託した思い

──その載せられなかった部分というのもすごく興味深いですね。さて前回「鳥が重要なモチーフになっている」という話がありましたが、この小説には自然が描かれているなという印象を持ったのですけど。文明と自然とは対極にあるものですよね?

太田 子供の頃って未来予想図とか描くじゃないですか。僕らが子供の時代は超高層ビルの間をエアカーが行き来するような未来都市を描く場合が多かった。でも今の子供たちが描くとすごく自然に溢れた絵が多いんですよ。子供たちが見る未来には自然の中で人間と動物がうまい具合に共存している。

 そういうことは俺らは予想もしなかった。我々の文明はそういうことの大切さを学んだんだと肯定的に僕は思うんですよ。

 福島以前には環境というのがキーワードで、そのときに標的にされたのは二酸化炭素だし火力発電だったじゃないかと。なのに、原発がだめだからまた火力に戻るというのはあまりに安易だなと。機械と自然の共存のなかに人類の未来があるんじゃないかなと。

──この小説の主人公も未来を担う2人の子供ワタルとマナブですね?

太田 ニュースなんかでは、これからの子供はとても可哀想だ、ますます生きづらい世の中になるだろうからと大人が言うけど、俺らの子供の頃もそう言われてたんですよ。広場もなくなり始めて遊ぶ場も減ってきて、しょっちゅう光化学スモッグの警報が鳴って外に出られなかったしね。公害はいっぱいあったし東京湾はヘドロだらけだった。自分が大人になるころには日本はどうなるんだろうと。

 でもその当時の問題はかなり改善されてきているわけだし、遊び場がないと言われてきた自分の子供時代を振り返ると、実はいろんな遊びを考えて自由に楽しんでいたわけですよ。だから今の子供だってちゃんと楽しんでるんだろうなと。そんなにこの国に悲観することはないと思うわけです。

──主人公の少年たちはとても魅力的なキャラクターに描かれていますが、どんな思いで書かれましたか?

太田 この2人の少年については書いている自分も楽しかったですね。僕は本を読むとき登場人物に感情移入する読み方をするので、あぁこういう子供がいてくれればいいなとか、こんな友達がいればどんなにワクワクした体験ができるんだろうといったことを考えながらね。

 こんな人が本当にいてくれればいいと思わせることができたら作者として勝ちだなと、そういう意識を持ってキャラクターは描きました。

 じつはね、今回の小説を書き始めたときにちょうどSMAPの曲『We are SMAP』の歌詞を同時に書いてたんですよ。小説のなかのワタルとマナブは好奇心を燃料として飛んでいくわけなんですが、これが『We are SMAP』の歌詞とすごくオーバーラップしているというか、リンクしてるんです。ですから、この曲と聞き比べてもらえると面白いかもしれませんね。

──ワタルの母親もチャーミングに描かれていましたね。

太田 ワタルの母親である人はどんな人なんだろう、この血を受け継がせた女性は……、とワタルから発想してできてきたキャラクターですね。だからこの女性を魅力的に感じてくれたということは、ワタルの魅力につながってくるわけですから、そう思ってもらえると嬉しいですね。