「生活残業」を求める労働者
中小企業の経営者にしてみても、労働者の立場は弱いという前提に納得できる人は少ないでしょう。むしろ、自分は何のために働いているのだろう、自分のほうが社員にこき使われている、と虚しく感じている経営者が多いように感じます。
そして労働者のほうも、労働法が100%適用されることを望んでいるわけではありません。
たとえば、労働法では労働者の健康被害を防ぐために1日8時間、週に40時間という法定労働時間を定めていますが、この時間通りに働きたいという労働者は少ないように感じます。たとえ経営者が法定労働時間を守ろうとしても、それに異議を唱え、残業を希望する労働者がどこの会社にも必ずいるのです。
「生活残業」という言葉があるように、住宅ローンや子供の養育費、あるいは年老いた両親の介護費用など、毎月決まった支出がある労働者にとっては、残業して得られる残業代もすでに生活費用の一部になっているからです。
景気がいいときに30万円の給料をもらっていた人は、同程度の給料を毎月得られることを前提に家計を組み立てているので、残業代をゼロにするわけにはいきません。そこで労働者は、せめて28万円の月給を維持したいので残業をさせてほしい、土曜も工場を稼働させてほしいと要求します。
ときには経営者には社員の生活を守る義務があるとして、団体交渉の場で残業する権利を主張する労働組合もあるほどですから、法定労働時間の規定が現代の労働者のニーズとマッチしていないことは明らかでしょう。しかもそうした労働者の要求をのんで生活残業を認め、余分な給料を払っている経営者は少なくありません。
過去に残業拒否闘争があったのは事実です。高齢のベテラン社員のなかには、残業をさせろという若い社員に違和感を覚える人もいるでしょう。しかし、日本人は働き過ぎだから労働時間を減らせ、残業は悪だ、という時代は終わりました。労働者の考えも時代とともに変化しているのです。
要するに、労働法は労働者の保護を目的としている法律にもかかわらず、肝心の労働者のニーズからもずれつつあるわけです。労働法は日本の産業構造や経済状況、労使双方の現状から乖離してしまっていると言っても過言ではないでしょう。