私は大学卒業後、大手建設会社の清水建設に入社しました。建設会社といえば、ビルを建てたり、施設をつくったりするのが中心の事業ですが、私が配属されたのは新設の「宇宙開発室」でした。

 少し前まで普通の女子大生だった私は、慌てて書店に走って宇宙の本を買い漁り、勉強したのを覚えています。そして、宇宙開発室の企画・調査研究・広報などを担当しました。

 この宇宙開発事業の一環として関わったのが、「国際宇宙大学」でした。世界数十か国から100名を超える参加者が集まり、宇宙に関することを夏季に集中して学ぶ宇宙専門の大学院大学でしたが、この日本側の窓口を担当することになったのです。

 私は事務局スタッフとして参加しましたが、世界中から宇宙の専門家が講師としてやってくる環境は、私にとって大きな転機となるものでした。そしてここで、世界の宇宙業界での人的ネットワークを構築することができました。今、世界中で活躍する宇宙ビジネスのトップたちも、今思えばその大学に学びに来ていたのです。

 私は2002年に清水建設を退職。夫の留学に同行してアメリカに渡りました。このとき宇宙についての調査の仕事を請け負う機会があり、ワシントンDCで宇宙関連の公聴会をレポートしたりしましたが、同時に垣間見ることになったのが、アメリカ各地で「宇宙ビジネス」が勃興していく姿でした。

 宇宙ビジネスのことをもっと知りたいと考え、帰国後はJAXA(宇宙航空研究開発機構)に入社しました。広報部の教育グループに所属、宇宙のことを世の中に広める活動をしていました。アメリカ政府の政策変更によって、まさに商業の宇宙開発のステージが大きく変わるタイミングでした。

 その後、独立して宇宙ビジネスコンサルタントになり、事業開発、市場開拓、調査、コンサルティングの事業をスタートさせました。海外と日本の宇宙ビジネスのブリッジ役として、商業宇宙の世界を日本でもっともっと広げたいと考えたからです。アメリカで進行していた宇宙商業化は、世界に広がると確信していました。

 宇宙ビジネスは今、世界規模で急激に拡大しています。その勢いは一攫千金を狙い、金の採掘のために多くの人が殺到した19世紀アメリカの「ゴールドラッシュ」にたとえられるほどです。

 宇宙に浮かぶ小惑星には、実際に燃料やレアメタルなどの貴重な資源が豊富にあることが確認されていますが、その採掘という意味だけでなく、未開拓の空間に広がる無限のビジネスチャンスをつかもうと、多くの企業や投資家たちが殺到しているのです。

 その先陣を切っているのが、世界を動かすIT企業のBIG5やイーロン・マスクのスペースXです。彼らは一体どんな未来を見ているのか。宇宙にどんな可能性を感じているのか。その狙いを新刊書籍『宇宙ビジネスの衝撃』を通して、多くの方に知っていただきたいと思います。

『宇宙ビジネスの衝撃』は、これまで宇宙とは無縁だった人でもわかりやすいように、次の分野に分けて解説していきます。

第1章 IT企業が引き起こしたパラダイムシフトと「21世紀の黄金」
第2章 宇宙ビジネスが変える「今後の産業と私たちの生活」
第3章 シリコンバレーが切り拓く「宇宙ビジネスの最前線」
第4章 圧倒的なコストダウンで実現間近の「宇宙旅行」
第5章 もはやSFではない「月と火星への移住計画」
第6章 ベンチャーの参入が増え続ける「宇宙産業の事例」

 この10年あまりの宇宙の商業化で、宇宙ビジネスは急激に拡大してきました。そしてそれは今も、世界規模に広がっています。

 これからさらに成長が加速していく宇宙ビジネスには、大きなポテンシャルが潜んでいます。その「今」と「これから」をお伝えすることができれば幸いです。

(この原稿は書籍『宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)