どのような価値を世の中にもたらすかという視点

 ところが、このような自らのバリュー・プロポジションを規定するようなミッション・ステートメントを日本企業が掲げることは極めて稀である。

「いや、日本企業にだって経営理念とか社是・社訓などがあるではないか?」という読者もいるだろう。確かに規模の大小を問わず、日本企業の多くには社是や社訓の類いがあり、社員証や手帳などに刷られたり、場合によってはオフィスの壁に掲示されたりするなどして、後生大事に扱われていることも多いと聞く。

 ミッション・ステートメントも多くの企業にある社是やフィロソフィー、行動規範、経営理念などのうちの一つである。組織を一つの方向へ導き、企業としての価値を高める上で、極めて有効なものだからだ。

 それらはシリコンバレー企業に限らず、多くの欧米企業では、社会に対しての企業のバリュー・プロポジションを表現したミッション・ステートメントと、それを実現するための行動規範で構成されることが一般的である。

 しかし、日本企業の場合は仮に「ミッション」と呼べるようなものがあったとしても、先ほどのグーグルのものとは異なり、どんな企業でも当てはまりそうなもの、つまり「その企業ならではの価値」を定義づけたものになっていないことがほとんどだ。例えば、次のものはどうだろうか?

“Leading Innovation”
私たち、××××(企業名)の使命は、
お客さまに、まだ見ぬ感動や驚きを、
次々とお届けしていくこと。
人と地球を大切にし、
社会の安心と安全を支えて続けていくこと。
そのために私たちは、技術・商品開発、生産、営業活動に
次々とイノベーションの波を起こし、
新しい価値を創造し続けます。

 テレビCMなどで目にしたことのある読者もいるかもしれないが、これは東芝のミッション・ステートメントである。現在経営再建中の東芝であるが、きっかけとなった粉飾決算事件では、かつて見たことのないような驚きを次々と私たちに届けてくれたのは極めて皮肉であった。

 しかし、テレビCMで“Leading Innovation”というタグラインを見たことがなければ、恐らくどの企業のミッション・ステートメントかはわからないだろう。それでは、次はどうだろう。

「世界人類との共生のために、真のグローバル企業をめざす××××(企業名)」
企業理念: 世界の繁栄と人類の幸福のために貢献すること
そのために企業の成長と発展を果たすこと