「目力」がある人、というと前向きないいイメージですよね。でも、「いい声」を出すうえで「目力」は少々厄介者のようです。メディアトレーナー、ボーカルディレクターとして、芸能界のトップアーティストを指導する「表現」のプロである中西健太郎さんによれば「第三の目を使うと、いい感じで喉の緊張もとれて、いい声が出やすくなる」とか。今回は中西さんの新刊『姿勢も話し方もよくなる声のつくりかた』より、うまい「目力の抜き方」をお伝えしてきます。

 一般に、「目力(めぢから)がある」というのは、いい意味で使われますよね。
 やる気がみなぎっているとか、強い意志が感じられるといった前向きさのひとつの表れでしょう。

 でも、発声の練習においては、少々厄介なのがこの目力なのです。

「いい声」を出すために「目力」は邪魔?!<br />喉の緊張をとるには「第三の目」を使おうなぜ目力が「いい声」の邪魔になるのか?

基本的に、発声するときに顔や口に力が入って力んでしまうことは、あまりいいことではありません。顔や口に力が入ると、声が胸の空洞を通らず、頭周辺も締めつけられてしまい、空洞全体が響きにくくなってしまうからです。

 ところが、この「顔や口の力を抜く」というのは、できそうでできないもの。
 「わかっちゃいるけど、やめられない」んですよね。

 そういうとき効果的なのが、「目の力を抜く」ことです。
 顔や口の力だけを抜くのは難しいのですが、目の力を抜く、と思ってやってみてください。

 具体的に、どうやって目の力を抜くのか。
 そのためには「第三の目で見る」ことを覚えてください。

 東洋では、眉と眉の間の少し上に“第三の目”があるといわれています。ヨガをされている方や東洋医学などを少しでも勉強した方なら、聞いたことがあるかもしれません。
 この第三の目で見るように意識すると、不思議と「目力」が抜けて、体全体の余分な力が抜けていくのを感じるはずです。
 しかも、第三の目で見ると、さらに副次的な効果もあります。
 「眉間にしわが寄らなくなる」ことと、「視野が広くなる」ことです。

 早速試してみましょう。
 みなさん手元にある文章を2~3行、詩でも小説でも構いませんから用意していただいて、最初は「思いっきり眉間にしわを寄せて」読んでみてください。
 その後、「第三の目で見るつもりで」眉間を開いて読んでみてください。

 いかがでしょうか。
 驚くほど声に違いが出たのではないでしょうか。
 目の周辺の神経と喉の周辺の神経は非常に近いことも、こうしてみると実感していただけたと思います。

 人間の脳機能のうち、かなり多くの割合が視覚情報処理に使われているといわれます。目は脳の司令塔の一つです。
 ですから、発声も含めて肉体運動をするときには、この目をどのように使うかというのがひとつのポイントなのです。

 第三の目で見て眉間を開き、目をリラックスさせます。
 このことで、神経的に密な関係をもっている喉の緊張も緩和されますし、全身が心地よく緩んでくる感覚があると思います。

 ここでさらに、視野を広くとって、自分の周りの空間をより大きな立体として感じてあげると、目から脳に指令を送ってくれます。すると、脳は「この広い空間に声を響かせる必要があるんだな」と認識して、自然と厚みのある声を出すように体に指令を出します。
 仮に狭い会議室などにいても、部屋の外につながっているイメージで遠くまでスペースを感じてみてください。

 発声のテクニックももちろん大事なのですが、脳が必要性を感じてくれることは、そのテクニックを定着させ、向上していくうえで非常に重要です。
 人は、心から楽しい!、やりたい!!と思うことでないと、自分に必要ないこととして脳が切り捨てようとするため、長続きしません。おそらく、みなさんも子どものころの習い事や、大人になってからの英語の勉強などで、思い当たるところがあるのではないでしょうか。
 そういう体の奥深さやいろいろな感覚・機能を知ることで、より自由に発声できるようになると思います。みなさんも身近なところから関心をもってみてください。