全会一致は問題の根源?

村上:意思決定における全会一致の話を以前にしたと思うけど、難しい判断や議論を起こす判断って、最も全会一致がしづらいし、反対意見が出て然るべき。本当はそういう意見こそ重要なはずなのに、反対意見に対して、真っ当に向き合いづらい状況というのは往々にしてあると思う。

朝倉:口やかましい人として片付けられてしまうとかね。

村上:みんなが、ぱっと合意できることは、そんなに重要じゃないんですよ。多分。

朝倉:意見が分かれないんですもんね。

小林:持論なんだけど、取締役会はちゃんと多数決にすべきだと思う。そうじゃないと、議論を巻き起こす議題に向き合えなくなる。
昔、上場会社の役員たちが集まった場で聞いたことがあるんですよ。取締役会の決議ってどうやってるんですかって。すると、全会一致でやっているところが結構多かった。散々議論を尽くして全員が合意したらやるっていう。一見聞こえは良いんですが、そうすると、事前の摺り合わせによって丸い案が出て、何も角が立たなくなってしまう。

朝倉:まとまらなかったら「翌月に持ち越し」ですもんね。

小林:これだと、エッジの効いた意見は出づらくなるんちゃうかな。

村上:結局、すぐ全会一致できるものって、議論するほどの議題でもないもんな。あと、経営会議にかけた議題で、揉めた時の反対意見をちゃんと残しておかないと、失敗した時に引き返せへんのとちゃうかな。全会一致した3ヵ月後に間違いに気づいても、「いや、全会一致やったやろ」となってしまうから、方針転換しづらい。

小林:冨山和彦さんはその辺りを強く意識してらしたんちゃうかな。冨山さんらがコーポレート・ガバナンスコードの基本方針のモデル案をつくった際に、最初は社外取の人数を3人、もしくは3分の1以上とする内容になっていたんですよね。
そうしたら、「そんなに増やすのは無理だよ」って圧力がどこかからかかって、「じゃあ2人にしましょう」と。この「2人」という数字は、全会一致が暗黙の前提として支配している日本の取締役会の勘所を押さえた数字ちゃうかなと。1人が反対というと、場の空気で反対意見を封殺するんです。だけど2人、つまり複数人が「おかしくないですか?」って反対すると、「あれっ?なんかおかしいかな?」と風向きが変わる。
本当は多数決だと2人反対でも気にしなくて良いんですけど、2票反対が出ると有意義なカウンターオピニオンにはなるから、「じゃあもう少し考えます」と動く。

村上:その通りやね。2人いたら無視できないし、声の大きな人が2人だと影響大きいよね。更に、最近は小さな取締役会で人数も減ってきてるから。

小林:ある種、これは日本の取締役会の空気を逆手に取ったやり方として機能するんじゃないかというのが私の見立て。2票反対したら再考するだろうと。
厳格に票を採って取締役会を運営するのって、特に新興企業では少ないんちゃうかな。ある会社は、取締役会できちんと票を取った上で、取締役会の意思決定を尊重し、決定した後は反対だった人も一体となって邁進しなければいけないっていう鉄の掟があるって。これは会社法上至極当たり前のことなんですけどね。

朝倉:当たり前ですね。

小林:でもやってる会社は本当に少ない。

朝倉:第33代大統領のトルーマンなんかは「政争は水際でとどまるべし」と言っていて、これは国際政治の基本的な考え方なのだけど、内部では喧々諤々議論して、まとめたものについては粛々と進めていく。意思決定って本来そういう手順でやるもんでしょ。