普通の会社では絶対できない体験
製造部長の井田貴久と副部長の宮濵司がこのプロジェクトに携わっていましたが、井田はこう言います。
「強度を保ちながら軽量化を図らなければならず、ホイールの試作だけでも100輪以上つくったと思います。当社はアルミをメインに加工している会社ですが、ハクトに関わったことで初めてマグネシウムを削りました。マグネシウムは燃えやすいので、扱い方を間違えると発火します。ですから、加工方法を勉強する必要がありました。
一般的にアルミを削る際には、切削油に水を加えて使いますが、今回のケースはそれでは対応できないことがわかり、専用の油に変えたりしました。新しいことを成功させるには、新しい勉強をしたり、新しいやり方を試したりしなければなりません。残念なことに、レースは打ち切られてしまいましたが、こうした新しい経験の積み重ねが人を成長させるのだと思います」(井田)
一方、宮濵は、入社当時から「宇宙への興味」を口にしていました。
「私が入社したときには、まだハクトの話はなかったのですが、ヒルトップは同じパーツをつくり続けるのではなく、多品種単品でいろいろなものを開発・製造しているため、いずれは宇宙関連の部品製作に関わる機会がくるのではないかと思っていました。副社長はそのことを覚えてくれていて、『おまえ、宇宙が好きなんやろう? 井田と2人でリーダーとしてやってみいへんか』と声をかけてくれました。内心、うれしかったですね。
ただ試行錯誤の繰り返しで、正直、とても大変でした。1回つくっても、動かしているうちに割れたり欠けたり動かなくなることもあって、部品の改良だけでも1年以上かかっています。
宇宙空間は温度差が大きいため、熱の放射なども考慮した設計が必要です。光の反射の具合でローバーが持つ熱の量が変わってしまい、動かなくなることもあるので、普段はつくらないような形状の部品をつくる必要がありました。
『任された以上は、成功させなあかん』というプレッシャーも大きかったのですが、普通の会社では絶対にできないことを経験しました。プレッシャーの中でもやりがいがあるからこそ、成長しているなという実感があります」(宮濵)
今回、年間2000人の見学者が訪れる、鉄工所なのに鉄工所らしくない「HILLTOP」の本社屋や工場、社内の雰囲気を初めて公開しました。ピンクの本社屋、オレンジのエレベータ、カフェテリア風の社員食堂など、ほんの少し覗いてみたい方は、ぜひ第1回連載記事をご覧いただければと思います。