「がん」「虫歯」「認知症」を予防する
ハーバードメディカルスクール(ハーバード大学医学大学院)の主な教育提携病院である、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターで、私は長年肝臓内科の入院診療を年に4週間行っていた。
その際好奇心から、医学生やインターン、研修医、同僚の医師に頼んで、重度の肝臓疾患患者に「コーヒーをどれだけ飲みますか?」と聞いてもらった。
医師たちからは判で押したように、「重度の肝疾患で入院する患者さんに、コーヒーをよく飲む人はひとりもいませんよ」という答えが返ってきた。毎年、毎週、まったく同じ答えが返ってきたのは、とても不思議で驚くべきことだ。
コーヒーの健康効果に疑いの余地はない。コーヒーには肝硬変をはじめ、2型糖尿病、心臓疾患、パーキンソン病、認知低下と認知症、胆石、虫歯、一般的ながん(前立腺がん、結腸がん、子宮内膜がん、皮膚がんなど)を予防するなど、さまざまな効果があると考えられている。それにコーヒーを飲む人は自殺率も低い。
信じがたいかもしれないが、コーヒーを飲むと頭の働きがよくなり、運動能力も高まるようなのだ。メジャーリーグの野球選手には、集中力と敏捷性を高めるため、試合中にコーヒーを6杯も飲む人がいる。
コーヒーは脂肪の燃焼も助ける。頭痛の治療に用いられることもあるし、通説とは裏腹に、不整脈で入院するリスクまで下げるようなのだ。
4杯飲む人の「死亡率」が16%低かった
しかし、コーヒーの健康効果に関する1万9000件を超える研究から明らかになった最も驚くべき結論は、コーヒーをたくさん飲む人は、ほとんど(またはまったく)飲まない人に比べて長生きする、というものだろう。
にわかには信じがたいが、これは優れた研究によって裏づけられている。たとえば医学専門誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に2012年に掲載された、アメリカ国立衛生研究所(NIH)による研究は、14年かけて40万人からデータを収集した結果、1日2~6杯のコーヒーを飲む人は、飲まない人に比べて、調査期間中の全死因死亡率が男性の場合は約10%、女性は約15%低かったと報告した。
コーヒーの摂取量が多いほど死亡リスクは低く、1日4~5杯飲む人の死亡リスクが最も低かった。また興味深いことに、女性は男性よりもコーヒーの効果が若干高かった。
ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院は、1966年から2013年のあいだに行われた、計約100万人を対象とする21件の研究を分析した結果、1日4杯コーヒーを飲む人は死亡率が16%低かったと結論づけた。
1点だけ、注意しておきたいことがある。研究ではコーヒーの摂取と健康上の危険因子との関連性(たとえば、コーヒーを飲む人は喫煙率が高いなど)が指摘されることが多くそのせいで結果の偏りが生じがちだということだ。
コーヒーにこれだけの効能がありそうなのに、アメリカ人がそのことをほとんど知らないのはちょっと不思議な感じがする。それに、大半の医師がそうした効果をよく知らないことにも驚かされる。
患者がかかりつけの医師に向かって、「研究によれば、コーヒーにはいろんな健康効果があるそうですね」などといおうものなら、こんな答えが返ってくるだろう。「ああ、そういう研究は一時のはやりにすぎませんよ。何ごともほどほどがいちばんです」
でもそうではない。そうした研究の多くは適切に実施され、論文審査のある一流の医学雑誌に掲載されている。コーヒーには用量依存性の効果が確認されている。
つまり1日に飲むコーヒーの量が多ければ多いほど、いま挙げた疾患の予防効果やリスク低減効果が高いのだ。