プルデンシャル生命2000人中1位の成績をおさめ「伝説のトップ営業」と呼ばれる川田修氏が、あらゆる仕事に通ずる「リピート」と「紹介」を生む法則を解き明かし、発売たちまち重版が決まった話題の新刊『だから、また行きたくなる。』

この記事では、川田氏自身が出会った、「ちょっとした工夫」で顧客を集めているサービス4つの事例を特別公開する。(構成:今野良介)

「また行きたくなるお店」の共通点

私は、『だから、また行きたくなる。』という本の中で、お客さまが「普通だな」と感じるサービスを「レベル10」、それをほんの少し超えて、お客さまの心を動かし、リピートや紹介につなげているサービスを「レベル11」という名前で、それぞれ紹介しています。

この記事では、私が「お客さま」の立場で出会った、いくつかの「レベル11」のサービスをお伝えします。

何がお客さまの心を動かし、リピートや紹介に繋がっているのか。

そのヒントを感じていただけるはずです。

「印鑑を押した領収書」をどう渡すか?

地方出張があり、JR東海の車内で精算をしたときに、車掌さんに領収書を出してもらうようお願いしました。

その領収書を受け取って、私は「えっ?」と不思議に思いました。領収書の下の部分が、折れ曲がっていたのです。

開いてみると、領収書の折れ曲がっていた部分には、印鑑が押してありました。私はそのとき、白いワイシャツを着ていました。

印鑑の朱肉がつかないように折り曲げてくれている

印鑑を押したばかりの領収書を胸ポケットにしまったら、朱肉がにじんで、シャツを汚してしまっていたかもしれません。インクがつかないように、わざわざ折り曲げてくれていたのです。

普通のお店ではよくあることですが、電車の中では、こんな経験は初めてでした。

この車掌さんの気遣いは、私にとって「レベル11」でした。

味噌汁の「おかわり」をどう提供するか?

ある温泉宿に行ったときのことです。

部屋はきれい、食事もおいしい、お風呂も気持ちがいい。申し分のない宿でした。

とはいえ、ある程度の宿泊料の旅館なら、それくらいは、あたりまえですよね。生意気ですが、あたりまえだと感じる基準、つまり「レベル10」は上がってしまいます。そういう意味では、「普通に満足」というのが、私の率直な感想でした。

「レベル11」を感じたのは、1泊した翌朝のことです。

朝食を食べるために、私はお食事処に行きました。ごはんに味噌汁、焼き魚、煮物といった和食の朝ごはんで、どれもおいしかったです。

特に、味噌汁がとてもおいしかったので、私はおかわりを頼みました。しばらくして、仲居さんが笑顔で2杯目の味噌汁を持ってきてくれました。

お椀のフタを開けると……あれ、さっきと具が違う?

2杯目(下)の具が、1杯目(上)と違っている!

1杯目はわかめの味噌汁でしたが、2杯目は布海苔の味噌汁だったのです。おかわりに違う具の味噌汁を出す温泉宿は、あまりないのではないでしょうか。

この瞬間、この宿に対する私の印象は「普通に満足」から「さすが」に変わりました。温泉宿では、味噌汁のおかわりができるのは普通ですが、おかわりで違う具の味噌汁を出すことは、普通ではありません。そういう、「普通」を少しだけ越える何かが、お店や会社のイメージを一気に変えたりするのです。

「どこかのんびりできる宿に行きたいんだけど、おすすめある?」と聞かれたら、その人の好みにもよりますが、1つの候補として、私の頭の中にはこの宿が浮かびます。

朝食のスクランブルエッグを、より美味しく食べてもらう工夫

もう1つ、印象に残っている「朝食のレベル11」があります。

フランス旅行をしたとき、宿泊したホテルの朝食バイキングに行きました。ホテルの朝食バイキングでは、必ずといっていいほど、スクランブルエッグが並んでいますよね。

では、スクランブルエッグが入っている「器」がどのようなものかは、覚えていますか?

多くのホテルでは、フタがついた大きな器に盛られていて、そのフタを開けて、中に入ったスクランブルエッグを取り分けるようになっていますよね。あのフタがついているのは、ホコリが入らないため、あるいは、卵が冷めてしまったり、表面が乾いてしまわないように、保温・保湿するためでしょう。

フランスといえば、パンの本場です。おいしいパンと一緒にスクランブルエッグを食べようと、あの大きな器を探したのですが、見つかりません。

「あれ、おかしいな。フランスではスクランブルエッグを食べないのかな……」

そう思いながら周囲を見渡してみると、何やら「黄色いもの」が入った小さな瓶を持って歩いている人がたくさんいます。

「なんだろう、あれ?」

その人たちを目で追っていくと、レストランの一角に保温庫が置かれていました。中を覗いてみると、黄色いものが入った小さな瓶が並んでいます。

そうなんです、それがスクランブルエッグでした。このホテルのスクランブルエッグは、一人前ずつ瓶に入っていたのです。

その瓶は、しっかりとフタがしてある状態で保温庫に入られていて、食べたいお客さまが瓶ごと席に持っていって食べるようになっていました。これなら、よくある、表面だけ乾燥してしまうようなこともありません。

「瓶入りのスクランブルエッグ」に込められた意味
①保湿と保温のため
②別の人が取り分けて形が崩れないようにするため
③衛生面の不安を感じる人への配慮

大きな器に盛っているスタイルでも、私はそれまで特に不満を感じたことはありませんでした。でも考えてみると、大きな器に盛ってあると、多くの人が取り分けるうち、スクランブルエッグがぐちゃぐちゃの状態になっていたりします。料理は見た目も大切です。

その点、この瓶入りのスクランブルエッグなら、味だけでなく、見た目や衛生面の不安も解決できます。このスクランブルエッグをお皿に盛って食べてみると、まるでつくりたてのように温かく、しっとりした状態でキープされていて、とてもおいしかったです。

「なるほど、こんな方法もあるんだ……」

味はもちろん、そのこだわりに、私はこのホテルの「レベル11」を感じました。

「どうしたら、もっと多くのお客さまに喜んでいただけるのか?」
「もっといい方法はないか?」

それを考えた末に、このようなアイデアが生まれたのだと思います。

アイスコーヒーをどのグラスに入れるか?

「レベル11」というと、いつも素敵で美しく、気が利いていることばかりかというと、必ずしもそうでないものがあります。

次の事例は、ここまで挙げてきたものとは違う「レベル11」です。

次の写真を見てください。

これ、何だと思いますか?

この飲み物は……?

六本木の裏通りを入ったところに、ある中華料理屋さんがあります。

中国人の店主が経営するそのお店は、非常に雑然としていて、いつも店員の大きな話し声が飛び交っている、とても庶民的なお店です。

料理がすごく早くでてきて、しかもおいしい。値段もそれほど高くないので、近くに行く機会があるとよく寄っています。

初めてこのお店に行ったときに驚いたのは、飲み物を注文したときでした。アイスコーヒーを注文したら、先ほどの写真のようなものが出てきたのです。

グラスに、ビール会社のロゴが入っています。もちろん、中身はビールじゃなくて、アイスコーヒーです。

私は、このグラスにも「レベル11」を感じました。

おもしろいから、ではありません。とても「このお店らしい」からです。

高級レストランだったり、おしゃれなカフェだったら、ビールグラスにアイスコーヒーを入れるなんて、絶対にありえないことでしょう。

しかし、このお店はそうではありません。「安くておいしい料理を素早く提供すること」を何よりも大事にしていて、それ以外には、余計なお金も気も遣わない

そんなお店の姿勢が、ビールグラスのアイスコーヒーから感じられたのです。

「レベル11」は、とにかく変わったことを追求しなくてはいけない、ということではないのです。その職業、そのお店、その会社、その商品「らしさ」を追求していったうえで、自分には何ができるかを考えることなのです。

本当に大事なこと以外は、いっさい気にかけない。
そんな考え方も、潔くて、素晴らしいと思います。
だからこのお店は、いつも多くのお客さんでにぎわっているのだと思います。

 

私たちは、常に「サービスを提供する側」と「サービスを提供される側」という2つの顔をもっています。「提供される側」にいるときは、生活の中で、日常的に「レベル11」を感じ、心を動かされる経験をしています。でも、「提供する側」の立場になると、それを忘れてしまいがちになるのです。

だから私は、自分の営業活動の中で、いつも「レベル11」を実践できるように心がけています。
 

(参考記事)
伝説の外資系トップ営業が思わず写真におさめた「感動するサービス」5選
『だから、また行きたくなる。』序章全文公開