プルデンシャル生命2000人中1位の成績をおさめ「伝説のトップ営業」と呼ばれる川田修氏が、あらゆる仕事に通ずる「リピート」と「紹介」を生む法則を解き明かし、発売たちまち重版が決まった話題の新刊『だから、また行きたくなる。』
この記事では、川田氏自身が所属するプルデンシャル生命に今も息づく、創業者の知られざるエピソードを特別公開する。(構成:今野良介)

プルデンシャル生命は、なぜ「コマーシャル」をうたないのか?

仕事に対する理念であったり、哲学や考え方、思いは、経営者によってそれぞれです。

「社員を幸福にすること」でも「お客さまに幸せを感じてもらうこと」でも「仕事の質で日本一を目指す」でもいいのです。

重要なのは、会社や組織のみんなで同じ方向を目指すこと。どんなに優秀な人を集めても、目指す方向がバラバラでは、その力を最大限に発揮できません。だからこそ、企業や組織には理念が必要であり、それをみんなで共有する「文化」にまで高めていくことが、リーダーの重要な役割なのです。

私が所属するプルデンシャル生命にも、「企業理念」と謳ったものがあります。そして、創業社長の坂口陽史の「思い」が社員に浸透し、「文化」になっています。

それは坂口さんが私たちに対して、仕事、会社、そして生命保険に対する自分の考え方を、いつもいつも口にしていたからです。今でも強く心に残っている出来事があります。

※社内の人間である坂口を、あえて「坂口さん」と書かせていただいています。坂口さんは、高い志を持ったリーダーであったと同時に、いつも私たちのすぐ近くにいてくれる存在でした。「坂口」と書いてしまうと、遠い存在のように感じてしまうのです。筆者のわがままをお許しください。

プルデンシャル生命という会社は、1987年に設立してから、つい最近までテレビコマーシャルを打つことをしませんでした。経営者が「カンブリア宮殿」や「ワールドビジネスサテライト」のような経済番組に出て理念を語っているわけでもありません。プルデンシャル生命という会社名を知らない人は、今もたくさんいるはずです。

私がこの会社に入社した1997年、当時の社長の坂口さんに対して、ライフプランナーたちから強い要望が出されたことがありました。

「会社の知名度が低いと仕事がしにくいです。テレビコマーシャルを打ってください」

外資系の保険会社というだけで、怪しいと思う人も多くいた時代だったのです。

その要望に対して、坂口さんはこう言いました。

「コマーシャルを打とうと思えば、明日からでも打てる。それぐらいの財力はある。けれども、そのお金は誰が負担するんだ? あれは保険会社が負担しているんじゃない。お客さまが負担しているんだ。そういう業界を変革しようと始まったのがプルデンシャル生命じゃなかったのか? ほかの保険会社と同じようなことをするのであれば、この会社の存在意義はない。それでもコマーシャルを打つ必要があるのか?」

誰も、反論できませんでした。

伝説のトップ営業が今も胸に刻むプルデンシャル生命創業者が告げた「100年後」の話10年、15年ではなく

そして、そのあとに坂口さんから聞いた言葉は、私にとって今でも、仕事をするうえでの「芯」として心の中に通っています。

「僕は10年、15年で日本でナンバーワンの保険会社をつくろうとは思っていない。もちろん、つくろうと思えばつくれるかもしれない。無理な運用をして結果的に運用がうまくいき、コマーシャルをたくさん打って認知度が上がれば、ナンバーワンになれるかもしれない。でも、そんなふうにしてつくったナンバーワンは、10年、15年すれば崩れていくだろう。

僕がつくりたいと思っているのは、100年後に日本でナンバーワンになる生命保険会社だ。100年後に日本でナンバーワンの生命保険会社になるために必要なことは、たった1つだけだ」

当然、100年後には、その会場にいる人は誰一人この世にいないでしょう。
坂口さんの魂のこもった言葉に、すべての人が聞き入っていました。

「それは、お客さまに支持され続けることだ。だから、私は君たちにプルデンシャル生命の商品を売ってくれとは言わない。ただひたすら、お客さまに正しい生命保険の考え方を伝えてくれ。生命保険の素晴らしさを伝えてくれ。そうすれば、100年後、おのずとプルデンシャル生命は日本でナンバーワンになっているはずだ」

私は、常にこの言葉を胸に抱いて仕事をしていて、初めてお会いするお客さまにも、この坂口さんの話をお伝えしています。そのうえで、こう言います。

「これから商談を進めていく中で、私がお客さまのことより自分の都合を優先していると感じられるシーンが一瞬でもあれば、そのときは黙って席をお立ちください。私はそういう覚悟で仕事をしています」

この話をすると、お客さまの表情が変わるのがわかります。
そしてこれは、私自身への宣言でもあります。

また違う機会に、坂口さんにこんなことを言われたことがあります。

「プルデンシャルのために働くようなことはしちゃダメだよ。仕事の最終的な目標は人間的成長です。あなたの人間的成長のために、プルデンシャル生命という会社を利用しなさい」

坂口さんは繰り返し、会社の人たちにそう語っていました。仕事というのは、最終的には人間的成長が目的であるということが、入社した頃、どういう意味なのか正直よくわかりませんでした。でも、今は、少しわかったような気がしています。

営業の仕事で大切なのは、スキルではなく、結局は「人」として魅力的かどうかです。

人は「損得」ではなく「感動」で動く生き物です。どんなに営業トークがうまくても、商品説明が上手でも、それだけではお客さまの心は動かせません。だからこそ、人間的な成長が必要なのです。

私は後輩から「ずっと売れる人って、どういう人なんですか?」と聞かれると、いつもこんなふうに答えています。

「落ちているゴミを、またいでいかない人」

坂口さんから受け継いできたこういう考え方が、プルデンシャル生命の「文化」です。ルールのようなものがあるわけでなく、どんな仕事の仕方をしようが、会社はあまり何も言いません。ただし、人としてどうあるべきか、という考え方は共有されています。

「今の自分を、お客さまに見せることができるのか?」

誰もがそういう意識を持っていて、お客さまが見ていても、見ていなくても、恥ずかしくない自分でいようとしている。そんな「文化」が築かれています。

企業理念は経営者が考えて紙に書けば出来上がりますが、「企業文化」はそれらを経営者から現場の人たちまで全員で実践して積み上がっていくもので、一朝一夕ででき上がるものではありません。

私が、『だから、また行きたくなる。』という書籍で最も伝えたかったことの1つは、「文化」を作るうえで、「経営者」の存在は絶対に欠かせないということです。

私が見てきた会社には、どこに向かって歩けばよいのかをはっきりと示し、仕事の面白さに気づかせて、現場の人の力を最大限に引き出す、多くの経営者がいました。

しかし、経営者の役割は社内に対しては大きな存在ですが、お客さまや社会との接点を持ち、その会社の評価を左右しているのは、現場の人たちです。

現場の人たちが実践してこそ、それが「企業文化」として成熟していくのです。

つまり、経営者や管理職、現場の人たちが同じ方向を向いて進んでいくことが、絶対に欠かせない大切なことなのです。

(参考記事)
伝説の外資系トップ営業が思わず写真におさめた「感動するサービス」5選
『だから、また行きたくなる。』序章全文公開