急に思い出した「僕は社長やったんや」

水戸岡 運輸部長でいらした古宮洋二(ふるみやようじ)さんですね。

唐池 そうです。彼はおそらく社内はもとより、日本の鉄道会社でもトップクラスの知識と経験を備えた鉄道のプロですから、彼の猛烈な反対というのはなかなかの難関と思われました。

水戸岡 あの方は理詰めで攻めてくるリアリスト。細かい仕事の指導も随所でできるし、大きく牽引もできる優秀な方だから。

唐池 まぁそうですな。僕以外の人を褒められてもピンとこないけど(笑)。

水戸岡 唐池さんは経営者として極めてシビアなリアリストである一方、相当なロマンチストですから。そういう経営者はほんとうに珍しい。

唐池 えーと、そのロマンチストが(笑)、2009年に社長に就任してすぐに「世界一の豪華列車を!」を言い出したときの周りの反応はとにかく最悪でしたね。社内の取締役は全員一致で大反対。国交省もほんとうに冷ややかな反応で。まだ上場前(※2016年に東証一部上場)でしたから、国にむやみにたてつくわけにもいかない。

水戸岡 僕もじつは「JR九州にそんなことできるわけない」と心中密かに思ってました……。

唐池 知ってます(笑)。そういう状況で社内の関係部門、つまり運輸、車両、運行、営業、人事といった豪華列車を運行するにあたって関係してくるであろう先々からレポートを求めたんです。
 そうすると、どのレポートも同じ。非常に綿密にいかにも困難そうな状況を書き連ねてくる。「やれない」とは書いていない。ただし行間からありありと「やりたくない」という意思が感じられる(笑)。

水戸岡 ひょっとしたらその時点で本気で「やれる」と思っていたのは唐池さんだけだったかもしれない。

唐池 そうですね。センセイには期待していたんですが(笑)。

水戸岡 すみません(笑)。一部の口さがない反対派の方々からは「クルーズトレインじゃなくて、クレイジートレインだ」なんて声も実際に聞こえてきましたからね。

唐池 そんな四面楚歌の状況のなか、僕は反撃に出たんですな。思い出したんです。「そうか! 僕は社長やったんや」と。
 代表権もあれば、そうそう人事権もある。とにかくずっと現場主義でしたしね、社長になったばかりで忘れとったんですな(笑)。とにかく、僕は社長として反撃に出ることにしました。その標的はただひとり、鉄道のプロ中のプロである古宮さんでした。

社長であることを思い出した唐池さんの反撃とは!?
次回に続きます。