---------建設会社の事例----------

「ウチの子が体調を崩したらどうするのよ!」

建設会社に年配の女性から電話が入った。すごい剣幕である。

「私は◯◯町、△△番地に住んでいる者ですけどね、やかましてくウチの子が眠れないのよ! 中止してちょうだい」

建設会社は、近くで廃屋の解体作業をしていた。その騒音に対するクレームである。

ただ、土日祝日と夜間の作業は、近隣住民の迷惑を考えて作業を控えていた。にもかかわらず、強硬なクレームがつけられたのである。

「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。先日、弊社の者がご挨拶にうかがったはずですが、もうすぐ作業を終えますので、今しばらくご辛抱いただけないでしょうか? お孫さんでいらっしゃいますか? お加減はいかがでしょうか?」

担当者がこう釈明すると、女性は不機嫌そうに言った。

「子猫のチイちゃんよ。チイちゃんがかわいそう!」

(了)

こうした各人の「感性」に由来するクレームは、多岐にわたります。「カタログを見て購入した商品がイメージと違っている」とか、「従業員の接客態度が気に入らない」など、数え上げたらきりがありません。

こうしたケースでは、「クレームの実態」から「こちらの責任」の範囲を明確にすることは極めて困難です。対応には苦慮しますが、「感性」が原因になっている場合は、丁寧にお詫びするしかありません。相手の感性を否定したり、論争したりすることは絶対にNGです。

ただし、相手に寄り添い過ぎるのは禁物です。相手が納得しなければ、基本に立ち返ってギブアップトークで応じます。つまり、「謝って済む問題」に持ち込めない段階で、放置を検討することになります。

もうひとつ、常識では計れないクレームを紹介します。

--------食品メーカーの事例---------

ある日、なんの前触れもなく、腐りかけた食品(自社商品)がメーカーに着払いで送りつけられてきた。同梱されていた手紙には、こう書かれていた。

「これまで長きにわたって、貴社の製品を愛用している者です。ところが、政府の不見識な市場開放政策によって、薬害に侵された商品が巷に出回っています。我々消費者は、そうした商品の数々を知らず知らずのうちに買わされています。残念ながら、貴社の商品にもその影響が出始めているようです。貴社のヒット商品である○○も例外ではありません。今回、お送りしたのは、その残骸です。私自身が食してみて、思わず吐き出してしまいました。どうぞ、創業の原点に立ち返り、良質な商品の製造・販売を行ってください。誠実なご対応をお願いいたします。善処していただければ、引き続き、貴社の製品を購入したいと考えております」

(了)

「前略」で始まるきちんとした文章でしたが、何が目的なのかがよくわかりません。

そしてどこか、異様な雰囲気が漂っているのを感じるのではないでしょうか。

額面通りに受け取れば、業務改善への期待ということになりますが、どのように善処すればいいのか、具体性に欠けており、対処に迷います。

メーカーとしては、製品を賞味していただけなかったことのお詫びとともに、消費期限切れの検体では調査・検査ができないことや、製造工程でとくに異常は見つからなかったことを書面にして返送しました。それは受け取りを拒否されて送り返されてきましたが、その後は、もはや静観するほかありません。以降、連絡はありませんでした。

つまり、この場合も、「放置」したのです。

『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、このようなクレーム事例をふんだんに紹介しながら、対面・メール・電話あらゆる場面における正しい対応法、ネット炎上を鎮火させる方法、高齢化に伴い増加している「シルバーモンスター」の実態と対策など、クレーマーの終わりなき要求を断ち切る23の技術を余すところなく紹介しています。

ぜひ、現場で使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で「顧客満足」を追求してください。

(参考記事)
「半殺しだよ」→「怖いです」
「SNSで拡散するぞ」→「困りましたね」
究極のクレーム対応“K言葉”の活用術