そもそも、「記録」はクレーム対応の基本です。正当な要求である場合も含めて、クレーム内容をできるだけ詳細に記録しておくことが大切です。電話でのクレームには録音機能付き電話で対応し、状況を時系列で文書にまとめておくといいでしょう。
クレームを記録すると、「言った、言わない」の水掛け論になることを防いでくれるだけでなく、肉声を録音することで、クレーマーの「人となり」を知る手がかりが得られることもあります。
たとえば、会話の中で業界用語が頻出するようであれば、その業界に身を置いている(置いたことがある)と推察できます。録音データを聞き返すことで、こうしたクセが確認できるのです。
また、録音によって、相手に対しては脅迫めいた暴言を抑制する効果があります。同時に、自分自身も言葉を慎重に選ぶようになるため、クレーマーに言葉尻をとらえられるリスクが減ります。
なお、クレーマーとのやりとりを記録することは、警察に相談したり、緊急通報したりするときにも役立ちます。場合によっては、録音した音声を警察官に聞いてもらうこともできます。
クレーマーとのやりとりを録音することについては、個人情報保護法への抵触を心配するかもしれませんが、それには及びません。事前にひと言、「大事なことですので、記録させていただきます」と、断っておくといいでしょう。
自分の氏名も名乗らないような悪質なクレーマーに対しては、事前に録音の許可を求める必要もありません。堂々と、黙って録音すればいいのです。
データは共有してこそ価値が出る
クレームの記録は、「報告書」「回答書」など、さまざまな形で文書化されるでしょう。こうした文書は、「報告書を出せ」と、相手から求められることもあります。
いったん文書にすると、それが「一人歩き」することを懸念するかもしれませんが、むしろこちら側の意思を明確にするという意味で、「意思表示」や「意思統一」のツールとしてとらえたほうがいいでしょう。つまり、足場を固めることができるのです。謝罪文や詫び状などとは、区別して考えなければなりません。
クレームに関する記録は、組織内で情報共有してこそ価値があるものです。
画像や映像についても同様です。店内には防犯カメラが設置され、タクシーやレンタカーにはドライブレコーダーが搭載されるようになりました。これらに収められた映像は、暴力などの犯罪行為への抑止効果がありますが、モンスタークレーマーに対する抑止効果もあります。
2014年9月に「コンビニ土下座強要事件」と呼ばれる事件がありました。大阪府茨木市のコンビニで、店長らが男女4人の客に言いがかりをつけられ、タバコ6カートンを脅し取られたうえ、土下座をさせられた事件です。
土下座シーンが動画サイトに投稿され、それがネット上で話題になったため警察が動き、犯人は検挙されました。ところがこのとき、コンビニ店内に防犯カメラが設置されていたにもかかわらず、店舗側は警察に通報しませんでした。
こうした逃げ腰の姿勢を続けていると、クレーマーの標的にされてしまう可能性があるのです。
『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、このようなクレーム事例をふんだんに紹介しながら、対面・メール・電話あらゆる場面における正しい対応法、ネット炎上を鎮火させる方法、高齢化に伴い増加している「シルバーモンスター」の実態と対策など、クレーマーの終わりなき要求を断ち切る23の技術を余すところなく紹介しています。
ぜひ、現場で使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で「顧客満足」を追求してください。