プロレスが既存市場からシフトせざるを得なかった2つの理由

ムーギー:あとは、プロレスが変わらなければならなかったのは、時代背景もあると思うんです。20数年前はまだネットも普及していなかった。プロレスはいわゆるまだ解明されていない時代でしたよね。映画を観ているような、幻想を見ているような、ひょっとしたら……

入山:ひょっとしたら、プロレスは「ガチ」かもしれない、と思っていたと(笑)

ムーギー:そう。「ひょっとしたらビガロ、世界一強いんじゃないか」みたいなね。

入山:なるほどね、夢が見られる。だから、ネットの普及によって、プロレスならではの「謎めいた部分」が剥がされちゃったので、それも一時期プロレスが低迷してしまった要因かもしれません。

ムーギー:ただ、新たなプロレスのブルー・オーシャン戦略は、“格闘技的な強さ”だけを競うわけじゃないところだと思うんです。レスラーたちは、何回もキャラを試して、自分にバチッとハマるキャラが見つかったら、それを演じていく。自分をどう表現するかっていう、アートのような側面が強いと思うんです。

入山:なるほど。実際、木谷さんはカードゲーム会社のブシロードの経営陣でもありますよね。だから、選手を純粋なアスリートというより、ある意味でカードゲームのキャラクターのように見ている部分があると思うのです。そうすると、まさにレスラーにもキャラクターとして、その背景にあるストーリー性が必要ですよね。

ムーギー:だから、今のストーリー性が高いプロレスは、本来のプロレスの強みを活かしているようにも思えるんです。

『ブルー・オーシャン・シフト』は、レッド・オーシャンから抜け出して、ブルー・オーシャンへ移行する手順について、段階を踏んで解説している実践的な1冊です。ただし、注意しなければならないのは、『ブルー・オーシャン・シフト』では、従来の市場とは全くことなる、畑違いの市場に行くことを進めているわけではありません。要素を見直して、増やすもの、減らすもの、取り除くもの、創造するものを見直すことが重要だと述べているんですよね。

今の方向性にシフトする前は、「強さ」という要素を増やしていた時代もありましたよね。ボクシングが強いのか、プロレスが強いのか、みたいな戦いもやっていたり。

入山:K-1とかプライドが盛り上がっていましたし、プロレスラーが、異業種の格闘家と闘うのが流行っていましたね。

ムーギー:プロレスラーに勝ってほしいと思っていたのに、結構異業種と闘うと、負けてしまっていたんですよね。「強さ」の追求が、プロレスの魅力を高めることに、貢献していなかった。

しかも、異業種との闘いは、プロレスの「解明されていない部分」「謎めいていた部分」を、露呈させてしまったんだと思うんです。元レフェリーによる暴露本などもありましたが、これも“プロレスに強さを求めていたマニア層”を離反させた要因かもしれません。

入山:確かに、元オリンピック選手とかが、参戦していましたからね…勝つのは難しい。

ムーギー:そうなんですよね。信じていた「プロレスラーの強さ」が崩れてしまったことが、ファンが離れたもう一つの要因だと思うんです。縮小していく市場で、間違って“強さ”の要素を増やそうとして、レッド・オーシャンの競争に負けてしまったという。