人間のメンタリティは、プロレスで学べる!

ムーギー:ちょっと話が逸れるんですが、私、プロレスをやっていてよかったと思ったのは……

入山:ムーギーさん、「やっていて」って……興奮されていますね(笑)。自分でレスラーをやっていたわけじゃないですよね。

ムーギー:はい(笑)プロレス界隈のバリューチェーンの中にいて最大の発見は、洗脳される人、または自己弁護する人のメンタリティが分かったんです。

つまり自分の中で、「あれ? なんでジャイアント馬場の足めがけてみんな走っていくのかな」とか、「あれ? なんでこれ、起き上がれるのにずっと起き上がらないのかな?」とか、プロレスを見ながら、疑問が湧き出てくるんです。けれども、自分の中で一生懸命説明して、納得しようとするんですよ。「本当に痛くて起き上がれないんだ」みたいな形でね。

入山:そういう感じで試合を見ていたんですね。

ムーギー:で、途中で説明できなくなって、あるとき、「あ、これはショーなんだ」っていうことを認めざるを得なくなったときに、なんか心がフーッとなるというか。

入山:解脱していく(笑)。

ムーギー:そう。自分が信じていた事実を否定するんです。否定するんだけど、「いや、でもこれ、たしかに格闘技じゃないけど、違うジャンルとしてありのままの価値があるよね」みたいな、違う解釈の仕方にたどり着く。

入山:なるほど。

ムーギー:これはおそらく、それまでの思想を捨てて、まったく違う思想に転じる人と同じプロセスだと思うんですよ。だから人が洗脳されている時に、自己弁護のために感情的になる気持ちも分かる。

中学、高校時代って喧嘩とかするじゃないですか。その時に、ブレーンバスターをやろうとしても、どうしても技がかからないんですよね。あんな技、相手の協力がなかったら、かけられない。それでも、「いや、まだまだ俺はレベルが低いから、ブレーンバスターができないんだ」とか自己否定するわけですよ。でも、あるとき解脱する(笑)

入山:なるほどね。

ムーギー:だから私、プロレスには感謝しているんですよね。人間のメンタリティがよく分かった。“格闘技的な強さ”という価値観だけで境界線を引いていたところに、新たに“一生懸命さの表現”“華麗な技を受ける強さ”“アート性”“エンターテイメント性”など、違う価値軸で市場の境界線を引き直したのが、私にとっての“プロレスのブルー・オーシャン・シフト”でした。そして暴力性を減らすことで、それを敬遠していた従来の非顧客層を獲得して急回復を遂げたという、ブルー・オーシャン戦略のわかりやすい実例だと思っています。