完全個室のプライベートジムRIZAPなどを運営するRIZAPグループの代表取締役社長兼CEOである瀬戸健氏と、著者のW・チャン・キムINSEAD教授に任ぜられ『ブルー・オーシャン・シフト』の日本企業ケースを執筆したムーギー・キム氏の対談後編。前編ではRIZAPの事業をブルー・オーシャン戦略の視点から詳しく掘り下げた。後編では、M&Aなどで事業を拡大する同社が、今後何を成し遂げようとしているのか、その展望に迫った。(構成:肱岡彩)
「なりたい姿」を可視化したCM
―男性の自己投資市場という“非顧客層”を開拓
ムーギー:ブルー・オーシャン戦略では、他社が顧客に出来ていなかった非顧客層を、いかに取り込むかを考えることを重視しています。御社のビジネスだからこそ、獲得出来た非顧客層には、どのような人たちがいるのでしょうか。
RIZAPグループ 代表取締役社長
1978年福岡県出身。2003年に健康食品の通信販売を目的として、健康コーポレーション株式会社を設立。「豆乳クッキーダイエット」やどろ豆乳石けん「どろあわわ」などのヒット商品を開発・販売してビジネスを成長させ、2006年に札幌証券取引所アンビシャスに株式を上場。
2012年にボディメイク事業RIZAPを創業し、3年で売上高100億円を突破。全国に124店舗*、海外にも7店舗*を展開、累計会員数は約12万人*。
2015年に発表した中期経営計画「COMMIT2020」に沿って、「自己投資産業グローバルNo.1ブランド」の経営目標を掲げ、M&Aや業界リーダー企業との事業連携を積極的に実施。2016年7月にRIZAPグループ株式会社へ商号を変更。連結子会社は約85社*。2021年3月期連結売上高3,000億円、営業利益350億円を目指す。
*いずれの数字も2018年9月現在。©yOU
瀬戸:男性の自己投資のマーケットをつくったという自負はあるかもしれません。
女性の自己投資市場には、ジムはもちろん、ヨガなど別のカテゴリーのエクササイズもありますし、エステもあります。
それに比べて男性の自己投資市場は、その当時は、非常に小さい状況でした。男性がなりたいと思う理想像を追求したいと思っても、それに応えるサービスが少なかったんです。自分をより磨きたいと思っていた潜在的な層を、新たに開拓したと思っています。
ムーギ:御社は、男性たちに「こうなりたい」というイメージを訴求するマーケティングが、非常に特徴的でしたよね。CMが印象的です。
瀬戸:CMの15秒間の中で、どう表現するかに関しても、他社とは違ったアプローチをとるようにしました。まず、「結果にコミットする」という部分を強調したんです。
同じようなサービスを提供している企業の多くは、恐らく結果よりもプロセスを打ち出すと思うんです。例えばトレーニングの内容、トレーナー、店舗設備などです。ですが、RIZAPのCMに、出てくるのは結果だけです。15秒間で何を残して、何を削るかを、明確にしました。
加えて、RIZAPのサービスが自己実現につながるという部分は、言葉や数字では表現しづらいです。こういった強みは、感覚的に、無意識に感じてもらうものだと考えました。ですので、その部分は、CMに登場するモデルの表情、ポージング、音などで表現しています。15秒間の中で、「男性がなりたい姿は、どんなものなのか」というのを、出来るだけビジュアライズする努力はしました。
ムーギー:言われてみると、CMもこれまでのダイエット産業のものとは違って、「自己実現」のイメージが強いですね。
瀬戸:広告代理店さんと協議していく中で、「痩せて、こんなものが着られるようになりました」といった体験談や、数字を出来るだけ羅列するとか……いろいろ案は出てきたのですが、それでは、我々が提供する価値を伝えられないなと思いました。