オリジナルのマニア市場にしがみつけば、市場は縮小する
ムーギー:ここらでブルー・オーシャン戦略のコンセプトに繋げましょう。新日本プロレスの凄いところは、こういった私のようなガチのプロレスファン層のためのプロレスから、従来の“非顧客層”へと方向転換したところなんですよね。今のような話が分かる人だけをターゲットにしていたら、市場は縮小するだけだったと思うんです。
けれども、新日本プロレスは、「複雑な因縁関係のような、マニアしか理解できないようなストーリー」「バイオレントな流血シーン」「暴力的なマイクパフォーマンス」等を、試合から取り除きましたよね。代わりにスポーティーなかっこよさや、楽しさの要素を増やしました。結果、それまで顧客になりえなかった非顧客層として「女性」を獲得して、見ていて楽しい、家族で行けるファミリーエンターテイメント市場を切り開いた。
入山:そうなんですよ、「新日本プロレスが、実はシルク・ドゥ・ソレイユのようにブルー・オーシャンを切り開いている」と私が思ったのも、まさにそこなんです。
以前の新日本プロレスでは、プロレスラーの「本当の強さ」を強調するいわゆる「ストロングスタイル」を謳って、流血試合も多かった。それが今では、ストロングスタイルがなりを潜めて、エンターテイメント性が増強されているんですよね。棚橋選手とか、オカダ・カズチカ選手みたいにルックスがいいプロレスラーがどんどん登用されて、女性ファンも子どものファンもすごく増えている。
従来のマニア的なプロレスファン以外の層を獲得して、まさに市場の境界を引き直して成功しているところが、ブルー・オーシャン的なんですよね。
ムーギー:どうしても今いるファンを大事にしようと思うと、これまで積み上げてきたスタイルから離れられないのが普通です。従来、プロレスを見に来なかった層が、プロレスを敬遠していた要因を取り除いたことが、重要な方針転換でした。もっともこれは、経営陣とオーナーシップがバイアウトで変えることができたから可能になった方針転換ですが。
入山:実は、新日本プロレスの木谷会長と対談をさせていただいた際には、「(プロレスに)マニアはいらない」という木谷さんの発言の意図を伺ったんです。
すると木谷さんは、「時代に合わせて常識は少しずつズレていくのだけれど、マニアの人たちは最初の常識にこだわってしまう。マニアだけで巨大なマーケットがあれば、問題ないけれど、プロレスの場合は、マニアの人たちを見ているだけでは、市場が縮小する一方だった」と仰っていました。
成功していた頃の常識に捉われるのではなく、市場環境の変化を捉えて、新しい市場へシフトすることは、あらゆる業界に必要なことなんだと感じましたね。