学ぶべきことは「失敗者の話」にこそある

 確かに「仕事ができる人」と「イマイチの人」の起床時間をアンケート調査したら、「できる人」のほうが早く起きる傾向がある、という事実が明らかになるかもしれません。

 しかし、だからといってすぐに「ほら、できるヤツになりたければ早起きしなきゃ」とはいえないのです。もしかすると「できる人」は仕事量が増え、結果的に早起きせざるをえなくなっているのかもしれません。

 また、「できる人」はアンケートに几帳面に答えがちなので、起床時間を正確に記入した。一方、「イマイチの人」は「朝起きる時間? んー、覚えてないな」と無回答が多かったので、正確なデータが集まらなかった。そんな可能性だって否定できません。それにたとえ、「起床時間」と「仕事のでき」に因果関係があったとしても、それは無数にある要素の一つにすぎないでしょう。

 「ウルサイこというなよ」という声が聞こえてきそうですが、ビジネス書は「成功者が書いた」ということを忘れてはなりません。世の中には「朝早く起きていても仕事がうまくいかない人」だっていくらでもいるでしょうし、もしかすると「早起きしてカツオ節の味噌汁を飲むようになったらビジネスが大失敗した」人もいるかもしれないのです。しかし、失敗した人は「味噌汁がオレを地獄に落とした」といった本など書きません。

 本来、人間が学ぶべきことは、「失敗者の話」にこそあるはずです。

 精神科の診察室に来るのは失敗者ではありませんが、思わぬ病気や挫折、大きなストレスで苦しんでいる方たちです。もちろん私の仕事は医学的知識を使ってその人たちの苦痛を和らげることですが、個人的には「ここはまさに人生道場だな」と感じています。しかし、その人たちの声や経験は「少数者の問題」とされ、スポットライトが当てられることはほとんどないのです。