「成功には法則があり、失敗には偶然しかない」という思い込み

 最近は、ブログで自らビジネスでの失敗談を赤裸々につづる人も増えてきました。しかし、読者はそこから「失敗の法則」を見つけようとはしないようです。

 そこに記されていることの多くは、「誰もがやっていること」だからではないでしょうか。ふつうにちゃんと会社に行っていた、休日は家族と時間をすごした、経済紙にも目を通すようにしていた。そんな人がたまたま、重要な会議で居眠りをしてしまい、社長に目をつけられ、そこから転落が始まった……。

 そういうブログを読むと、人は「かわいそうに。運が悪い人だな」「でも、これは偶然なのだ」と考え、そこから「失敗の法則」を導こうとは考えません。

 もし、その人が「蕎麦には目がない」と書いていたとしても、「蕎麦は腹もちが悪いから、会議の席でエネルギーが切れて居眠りしたのかもな。よし、もうランチに蕎麦を食べるのはやめよう」などとは考えないでしょう。実は、これは統計学的にはとても正しい態度です。「たまたまの居眠り」「蕎麦好き」と「仕事の失敗」には、おそらく何の関係もありません。

 それなのに、名物経営者が「若い頃から朝は必ずトロロ汁を食べる」と話しているのを知った編集者は、「それを本にしませんか」と勧め、そうして出来上がった『朝一杯のトロロ汁ですべてがうまく回りだす』などという本を読んだ人が、「そうか! オレも明日からトロロ汁だ!」と張り切って実践する。

 つまり「成功哲学」や「成功者が語る」といったうたい文句が付いただけで、統計学も何も吹っ飛んでしまい、「トロロ汁こそが成功の秘訣だったんだ!」とそこに強力な因果関係があると信じて疑わなくなる。これはとても奇妙なことです。