「柔道」と「祖母のだんご」を押し付けた大臣
実際には国の大事な方針なども、こういう奇妙な思い込みで作られている可能性があります。
もう何年も前ですが、政府の教育に関する審議会のメンバーをしていたことがありました。そこに出席したある大臣の発言を聞いて、私はひっくり返るほど驚きました。
「私は少年時代、○○学園の伝統ある柔道部でたいへん厳しい指導を受けました。そして、練習でへとへとになって帰ると、祖母が草だんごなどの素朴なおやつを用意してくれていたものです。だから、まずは武道、そして祖母による手作りの食事、これを日本の子どもたちすべてに体験してもらいたいのです」
この人は、子ども時代に武道を習い祖母のおやつを食べて育ち、見事、大臣にまでなれた。それはけっこうなことですが、自らの成功と「武道」や「祖母のおやつ」のあいだに因果関係があるとは思えません。
同じように「武道」と「祖母のおやつ」をたっぷり味わったのに、おとなになって借金人生を送っている、という人だってたくさんいるでしょう。
そんな個人的経験の中に因果関係があると思い込み、それを「全国の子どもたちに」などと政治家が主張するのは、国民にとっては迷惑以外の何ものでもありません。そういう人は、自分の家庭で子どもや孫にやらせるにとどめてほしいものですが、家では案外、「おじいちゃん、何いってんだよ」と相手にされていないのかもしれません。
成功者の個人的経験に無理やり因果関係を見つけ、「成功の法則」を導き出すのは愚かなことである。
「これだって、法則じゃないかよ」といわれればそれまでなのですが、今回はもう一度、このことを確認して、次回からはいよいよ「売れてるビジネス本」を読んでいきたいと思います。