良いサービスでも使ってもらえるとは限らない
松本 いろいろな産業で、同じことが起こっていくと思いますね。20世紀は大企業の時代で、バリューチェーンを垂直統合ですべてもっていないとサービスを提供できませんでした。しかし今や、レイヤー化が起きてバリューチェーンがつながり、既存のバリューチェーンに対して水平な機能をもつプラットフォームが産業の中心になっていくでしょう。ウェルスナビもラクスルもそういう構造の中で生まれたビジネスかなと思います。
あとは供給側の仕組みを変えていくことと同時に、需要側でいかにマインドセットを変えてもらえるかがカギになるのではないでしょうか。マーケットを作っていくことが大事ですよね。たとえば、富裕層向けだった資産運用を広く使えるようになったとして、今までやったことがない人に使おうと思ってもらえるかどうか。
柴山 諸条件が均衡している状態から、別の均衡点を作ろうということなので、その「よいしょ」と持ち上げる仕掛けが必要ですよね。
松本 商品・サービスの利便性が高かったり合理的だったとしても、大きく広がっていくとは限らないのが難しいところ。雪だるまがゴロゴロ転がって大きくなっていくために、その最初に転がすまでの盛り上がりをどう作れるか、というのは、今後業界構造を変えるプレーヤー共通のチャレンジだと思います。
自分も含めて、消費者は商品・サービスに関して完全な知識をもって合理的に選ぶわけではないので、消費者が動くときは最初にきっかけが必要ですよね。アリペイも最初は上海のコンビニで10元以上買うと10元ペイバックといったキャンペーンを実施していましたし、ウーバーも最初はほぼタダで使えるクーポン券を配っていました。
柴山 アリペイやウーバーはみんなスタートアップで、起業家が何かに取りつかれたようなマーケティングを行って成功している印象です。
我々にとっても、そのきっかけづくりは課題ですね。そもそも野村證券で530万口座、ネット証券最大手のSBI証券でも450万口座ということは、ざっくり考えると、それ以外にあたる日本人の95%は資産運用について自分に関係ないと思っている節があります。
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松本 個人の資産運用というのは、競馬やパチンコに近いイメージがあるというか…。リターンの期待であって、リスクのマネジメントになってない。リスクの取り方が0か100しかない気がするんです。でも本来的な運用は、効率的フロンティア(図)のどこをとるかという発想で、自分のもつリスクとともに、受け入れられるリスクと受け入れられないリスクのなかで、リターンを最大化していく、と考えるべきでしょう。でも、みんなすぐに「どうやったら儲けられるんですか」という話になる。本来、「儲ける」こととお金が「増える」ことでは概念が違うはずです。だから、正しい投資の概念を提供することによって投資の考え方そのものを変えていかないといけないんでしょうね。
柴山 180度変えないといけない、と思っています。たとえば、過去のパフォーマンスを基準に投資信託を選ぶとだいたい失敗することは研究でわかっています。それに、買った直後の資産の増減に一喜一憂して翻弄されると資産運用がうまくいかないことも、明らかになっている。そういった、資産運用の仕組みそのものを理解して、おっしゃるように効率的フロンティア上において長期的に運用していくんだ、という点をぜひ広くわかってもらえたらと思っています。(中編につづく)