「不完全相関資産」となる友人を大切にしなさい

 金融にとって、分散化はリスク管理のツールというだけではない。資産を分散化することには、それ自体に本質的なメリットがある。それは、従来のロジックとは違う論理であり、多くの思想家がその点を理解していなかったことからも、独特な論理であることがわかる。

 ジョン・メイナード・ケインズでさえ、近代ポートフォリオ理論が生まれる前には、「投資のあるべき姿は、自分がその事業についてそれなりの知識があり、その経営陣を固く信じている企業に、かなりの金額を投じることだ。自分がほとんど何も知らず、特に自信もないたくさんの会社に資金を分散化しすぎても、リスクは抑えられない」と言っていた。

 しかし分散化の論理は1000年前からずっと、多くの人にとって直観的なものだ。旧約聖書のコヘレトの言葉には、こう記されている。「7社に投資するといい。8社でもいい。先にどのような災いが訪れるかわからないからだ」。また、タルムード(ユダヤ教における旧約聖書に次ぐ教典)の中で、イサクは「富を必ず3つに分けなさい。3分の1は土地に。3分の1は物に。そして3分の1は手元に置きなさい」と勧めている。

 こうした宗教の書物で描かれているような分散化は、リスクを減らすだけでなく、実際にリターンを守ることもできるということが、ファイナンスの世界ではよく知られている。リスクが少なくリターンは変わらないなら、これほどありがたいことはない。

 値動きの異なる資産に投資すれば、補完関係のメリットを得ることができる。実際、ポートフォリオに加える資産としていちばんいいのは、手持ちの資産とまったく違う値動きをするものだ。異なる資産を組み入れることでリスクは下がり、リターンは維持できる。すでに保有している資産と同じような値動きをする資産を加えても、分散化という点ではあまり役に立たない。

 分散化のメリットは、人生にも通じる。ある親しい友人は、私にこんなふうに自分の人生のポートフォリオの問題を打ち明けた。「子どもと一緒にいることが、自分の時間のいちばん大切な使い道だってのはわかっている。でも、四六時中子どもと一緒にいたら、子どもをダメにしてしまうし、自分も変になってしまいそうだ。どうしてなんだろう?」

 ファイナンスの見方からいけば、経験も人間関係も絶対に分散化したほうがいい。考え方の異なる友人との関係はお互いに打ち消し合うことなく、むしろ関係を豊かにする。

 友人や仕事仲間と良い関係を築くことは、親としての努力を損なうものではなく、その努力の助けになるはずだ。実際、最も豊かな人間関係とは、普段の経験の外の世界に視野を広げてくれるような関係だ。

 そんな関係を、ファイナンス用語では「不完全相関資産」と言う。人生のポートフォリオを最も豊かにしてくれるのは、まさしくそんな資産なのだ。

 自分と同じように考え、同じ世界に住み、同じ経験をしている人に囲まれていると、それほど豊かな人生は送れない。ケインズが分散化を直観的に理解できなかったように、人間関係の分散化もまた、直観とは逆の行為である。人は誰しも自分に似た人たちに囲まれていたいと思うものだ。それは社会的な本能と言えるかもしれない。

 だが、そうでないほうがいいというのが、ファイナンスの立場である。もちろん、似たタイプの人に囲まれているほうが気楽だが、自分とは異質の人や物から自分を遠ざけるのではなく、反対に、あえて自分を異質な経験にさらすことを、ファイナンスは勧めている。