自軍の戦力を見極めて、
負ける戦いはしない

 社会を見渡せば、課題はたくさんあります。

 身近な地域コミュニティの問題や健康、医療の問題。教育や雇用、高齢化、少子化、農林水産業の構造的問題。さらには、わが国の財政問題や国際関係の問題。最近では、民泊などのシェアリングエコノミーの問題もホットな話題です。

 基礎自治体と広域自治体の両方の要素を兼ね備えた政令指定都市は、あらゆる課題の対処において、迅速に行動することができ、かつ市民にいちばん近い存在です。さらに、ありがたいことに昨今の福岡市のさまざまな新しいチャレンジなどの印象からか「この問題を福岡市から変えてほしい!」「国はなかなか動かないからチャレンジングな福岡市がすべきだ!」という声もよくいただきます。

 ただ、「大胆に改革をすべきだ」と思う課題は社会にたくさんあれど、それぞれ見えている問題の部分は氷山の一角で、水の下には「変えたくない層(仕事やもめごとを増やしたくない官僚や利益に群がる既得権層など)」がしっかり根を張っています。

 本気で改革しようとすれば、これらの勢力との全面対決になる。とても一筋縄ではいきません。正論を通すためにはとても大きなリスクをともないますし、猛烈に体力を消耗するのです。

「彼を知り 己を知れば 百戦殆(あやう)からず」と言います。

 行政や政治は戦いとは違いますが、考え方においては、似通っている面もあります。私はいつも「己」、つまり自軍の戦力を冷静に見極めるように細心の注意を払っています。

 戦力の見極めとは、その課題解決にあたる実働スタッフが能力的、時間的、精神的に新たな戦いに臨めるような状態にあるかということと、援軍である外部のキーパーソンや議員の勢力と動向のことです。くわえて、他の課題解決スケジュールとの関係や、自分の現在のポリティカルキャピタル(自分の意見を通すのに必要な政治の世界での影響力、とくに国政に対する影響力や自身の市民からの支持、共感度)などです。

 ようするに、行政的にも政治的にも問題が決着するまで攻守ともにしっかり戦い抜けるかを見極めるのです。あれもこれも、おかしいと思うたびに中途半端に戦端を開いていけば、敵軍も間違いなく全方位から弱いポイントを狙って攻撃を仕掛けてきます。ですから、戦いを挑むテーマに必要な戦力の総和が常に自軍の戦力以内に収まるように、それぞれの課題へのチャレンジの時期をずらすなど、必要戦力のコントロールをするようにしているのです。

 もちろん就任当初と比較すれば仲間も増えて、同時に処理できる能力も大きくはなってきました。しかし戦い方を間違えれば命取りになります。よって、「どこから手を付けていくか」「同時に取り組める課題はいくつまでか」など、チャレンジの優先順位は真剣に精査します。取り組むからには絶対に負けるわけにはいきません。自軍の戦力と、向かい合う課題の大きさを冷静に分析して、一つひとつ確実に結果を出せる範囲内でチャレンジすることを心がけているのです。

次回は、1冊の本がきっかけで人生が変わった話をお伝えします。12/22公開予定です)